第七話

 「売れない」とお嘆きの貴方、実は私自身ですが、どうしたら「売れる」ようになるのでしょう。

「売る」と「売れる」
 目下、我々商売人にとって、「売れない」という状況がはなはだ厳しい。どうしたら「売れる」のかを必死で考えています。ところで私は、これまでこの「商道(あきないみち)」で「売れる」というコトバは何度も使っていますが、「売る」というコトバは一度も使っていません。商売人にとって「売る」ことが一番で、どう「売る」のかが大事ではないか、とお考えの方も多いでしょう。なぜ私が「売る」というコトバを使わないのか。それは「売る」と「売れる」は意味が違うからです。では、どう違うのか。「売る」の主語は「売り手」ですが、「売れる」の主語は「売り手」ではない。「売り手」が「売る」という文章は成り立ちますが、「売り手」が「売れる」という文章は成り立ちません。では、「売れる」の主語は何か。「売り物」です。「売り物」が「売れる」のです。
 では、「買う」の主語は何か。「買い手」です。「買い手」が「買う」のです。では、「買い手」が「買う」のは何か、「売り物」です。「買い手」は「売り物」を「買う」のです。「買い手」が「買う」のが「売り物」であるなら、「買い手」にとって何より大事なのは「売り物」です。「売り物」の良し悪しです。であるなら、「売り手」にとって、「売れる」「売れない」は「売り物」の良し悪しで決まる。「売り手」にとっても「買い手」にとっても「売り物」の良し悪しがすべてなのです。であるなら商売で重要なのは、「どう売る」のかではなく「何を売る」のかになる。「コレを売りたい」の「コレ」ではなく、「コレを買いたい」の「コレ」が「売れる」。「売る」ためのノウハウ、あの手この手の手練手管は五萬とあるでしょうが、「売り手」にとっての「売る」は、下手をすると「売りつける」になりがちで、「買い手」にとっては「買わされる」になることが得てしてある。「売る」のではなく「売れる」ようにすることが商売の要諦だと私は考えるのです。