第四十話

 「商売は信用が第一や。お客さんに信用して頂くのは時間がかかる。失うのは一瞬や。嘘をついたらおしまい」と母は口癖のように言ってました。

「商の道」は「人の道」
 商売に限りませんが、「人を見る」ことは、とても大事です。私の場合、買い物をするときは、売る人を見る。この人は信用できる、と判断して買う。この人は信用できる、と判断するのは、この人は嘘をつかない、と判断するからです。「信」という字は、「人(ヒト)の言(コトバ)」で成り立っている。人の発する言葉が、信用の基(もとい)なのです。
 商売人は、愚直が良い、馬鹿正直が良い。利にさとい人は、往々にして嘘をつく。平気で嘘をつく。お客様は、一度や二度は騙される。しかし、いつか気付かれる。うまく騙されていたことに。嘘をつく商売は続かないのです。
 何十年も前、私が商売に携わるようになる前に、お客様にお求めいただいた着物を、手入れでお預かりすることがあります。見せて頂いて、私の父や母がおすすめした着物が、良品であることを確かめることができて、とても嬉しく、有難く思うのです。「モノ」は正直です、時がたてばたつほど。私が、今も商売が続けられるのは、父や母が、正直な商売をしてくれたお蔭だ、とつくづく感じ入るのです。
 「商道(あきないみち)」を書き続けて、なぜ「売れない」のか、どうしたら「売れる」のか、を考え続けてきました。しかし最後の最後まで正解は見つかりませんでした。超難問です。ただ私の中で理解できたのは、お客様から信頼を頂くことが最も大切である、ということでした。お客様に信用して頂けるような商売人であること。正しいと信じる「商の道」を、日々こつこつ、ひたすらに歩むことが、商売の王道ではないか。「商の道」は「人の道」に極まる、と知りました。「商道(あきないみち)」の結語です。