第二十二話

 「突然の揺れで目が覚めたら、枕元にテレビが落ちていて、まかり間違ったら頭に直撃するところやった。家にテレビが3台もあって、なんでこんなにテレビを持ってたんやと腹が立ってきた」と友人が言いました。

価値観の大転換
 震災の後、なんで家の中がこんなに「モノ」で一杯なんだ、と思った人は沢山いらっしゃいました。不要不急の「モノ」が家中にゴロゴロころがっている。しかし大枚をはたいて買ったその時は、その時で理由があった。必需品ではなくても、心のよりどころとして買いたかった。戦後、日本人は「モノ」を持つことに生きがいを感じたのです。「モノ」を買うこと、持つことは憧れだった。「モノ」は豊かさの象徴であり、豊かな人生の証だった。しかし震災は、唯に「モノ」を持つことと、人生の豊かさとは、必ずしも一致しない事実を私たちに突きつけたのです。「モノ」を持つことは豊かな人生を証明しない。「モノ」は唯に無用の長物かもしれない、と気付かされたのです。
 震災で私たちが気付いたのは、「モノ」を持つこと、すなわち「所有価値」は、「所有価値」そのものに本来の「価値」は無い、という事実でした。「モノ」は持つことではなく、使うことに意義がある。「所有」するだけではなく「使用」されて初めて「モノ」の「価値」は実現する。阪神淡路大震災の破壊力は凄まじかった。街を、人を、生活を、人生を破壊した。そして日本人が抱き続けた価値観をも。阪神淡路大震災という空前絶後の大惨事で、私たちは「所有価値」から「使用価値」への価値観の大転換を余儀なくされたのです。