民 族 衣 装 展
 「この間、立山に登ってきましてね、雷鳥を見てきました」。別染の注文を頂き、京都の「千總」で製作部の担当として紹介された名和野要さんが挨拶を交わしたあと話題にされたのが「雷鳥」でした。商売は「売れてナンボ」の世界、「いかに売るのか」ということしか関心がなくて当たり前、話題は「どうでっか、儲かりまっか」。そういう世界に身を置く人間として「雷鳥」の話題はとても新鮮だったし驚きでした。当時、「千總」の担当者だった増田文明さんが「きっと久雄さんとは話が合うと思ってました」、と後日語ってくださいました。
 増田さんの推察どおり、以後名和野さんとは小売屋と問屋、という関係を超えてお付き合いさせていただきましたが、正しく言うと「染織の先生」と生徒の関係でした。名和野さんは驚異的なほどフットワークが軽く、尽きることの無い好奇心であちこちを訪ねてこられました。私が染織についてお尋ねすると「久雄さん、一緒に行きましょか」と、京都市内の草木染工房、手描友禅工房、型友禅工房、刺繍工房、滋賀県の野洲町の藍染工房、長浜市の縮緬工場、と各所に案内してくださり「ものづくり」の現場を見ることの大切さを身をもって教えてくださいました。
 横山喜八郎さんに楽器をモチーフにした染帯を作っていただき「丸太やオリジナルコレクションコンサート」として発表を計画すると、「着物は私が作りましょう」と型友禅の草木染で素敵な着物を作ってくださいましたが、その着物は「きものサロン99秋号」に「東西人気ショップのおすすめ小紋」として紹介されました。1997年、志有って「千總」を退社される直前、置き土産として「丸太やオリジナルコレクションコンサート」の襦袢を作ってくださいました。
 名和野さんは「千總」在職中から、年に2度、盆と正月に長期休暇をとって外国に旅行をされました。日本の染織文化の精華である「きもの」のルーツを求めての旅です。シルクロード領域の周辺諸国、更にヨーロッパ、アフリカ、そして中南米諸国と足を伸ばされ、訪れた土地で精力的に民族衣装を収集されました。2001年2月、名和野さんが民族衣装の収集に訪れた国が100ヶ国を超えたのを記念して弊店で「シルクロードロマン―民俗衣装展」を開催したところ大きな反響を呼び、その後全国各地で開催されました。この度、前回特集したシルクロード周辺地域の民族衣装から、織物の宝庫といわれる中南米の民族衣装を特集して開催していただくことになりました。会期中、名和野要さんにお越しいただいて現地で撮影された写真もご覧頂きながら資料の説明をしていただきます。また名和野さんが製作に係わられた着物や帯もあわせてご覧いただくことになりました。
 地球のグローバル化、といわれますが太古より「地球はひとつ」であることを「民俗衣装展」で実感していただけるのではないでしょうか。