な ん も の
 世間一般に「ニッパチ」というコトバがあって2月と8月は商売が上がったりというのが相場なのですが、まして呉服屋は2月は兎も角、夏場の8月は全く商売にならないものでした。私が呉服屋になった頃、それなりに商売が順調な時代ですら7月8月はほとんど開店休業で余りの売上の無さに会計顧問の先生が「ひど過ぎるね」と指摘され叔父が頭を掻いて苦笑いしていたことが思い出されます。呉服屋になって初めて迎えた夏、谷口さんが新入りの私の紹介を兼ねてお得意様のお宅をいっしょに挨拶回りしてくれました。お客様との会話の仕方を実地で教えてもらう良い機会でしたが「この夏はあんたのお蔭でお客さんとお喋りできた。夏場はお客さんのお相手をすることがめったに無いから、いざ秋本番になったとき舌がくっついてうまく話ができなくて往生するんや。」そんな状態も店頭で小物雑貨を販売するようになって様変わりしたのですが。
 十数年前、小紋の専門問屋「珍粋」に仕入れに伺ったとき「丸太やさんは来店客の多い店ですからこういうものも販売していただけないですか」と大きな箱を奥からもちだされました。「色ヤケとか織キズとか、色々ですが、長いこと商売をやっているとどうしてもナンモノがたまるのです。」きちっとした商品、正反(せいたん)にたいしてナンの有る商品はB反と言われるそうですがそれまでそういう商品を販売したことが無かったので「普段の時期は出来ないですが夏場の7月8月だったら売らせていただきます。」と了解しました。いざ「なんもの掘出市」とめいうって開催したら驚くほどの反響で値段がとにかく安いものですからこんな状態の着物地が売れるのだろうかと思うようなものも「良いとこどりでブラウスにします」、下絵だけ描いてあった訪問着は「刺繍をするのに丁度良いです」とお買い上げいただきました。大半は勿論着物や帯にお仕立てをさせていただくのですが色ヤケなどは「はき合わせ」という加工で綺麗にさせていただきます。その技術は驚くほど上手で費用がかかってもお客様にはとても喜んでいただきました。織キズは直しようが無いので「裁ち合わせ」で出来るだけ目立たないようにします。「なんもの掘出市」はいつの間にか弊店の夏の名物催事になりある時期には初日開店前から何人ものお客様が閉まったシャッターの前でお待ちくださったこともありました。この夏は7月5日(土)から、どのような超特価品が出品されますか、どうぞ乞うご期待。