再 会
 信州上田で小山憲市さんと初めてお会いしときの深い印象、その誠実な人柄、作品 の出来映えに感銘を受けた私は弊店のお客様にも是非小山さんその人と作品に出会っ ていただきたい、という思いを抱きました。「弊店で個展をなさっていただけないで すか」とお願いすると「ありがとうございます。とてもうれしいお申し出ですが来年 の秋まで待っていただけないでしょうか。まだ作品が充分にありませんので一年をか けて納得いただけるものを作りたいと思います」。それから一年後、再び小山さんを 訪ねると出来上がっていました。
絵羽のきもの、着尺のきもの、どれもさわやかでみずみずしくて。「どうでしょう か」とおずおずとたずねる小山さんに「どれも素晴らしいですね、きっと弊店のお客 様に喜んでいただけると思います」それは確信でした。このときほどお客様に見てい ただく前に確信できたのは初めてでした。帰路、確かな手ごたえに胸躍りました。
 1998年9月13日、「織りふたたびー小山憲市個展」の会場に小山さんが来て くださいました。翌日までの二日間、次々にお越しくださるお客様、人柄に心打たれ 作品に心動かされ、お好みにあったきものをお選びになるお客様、何人ものお客様が 一緒になって、お客様どうしがお互いに似合いのきものを選びあう、そんな光景はか つてなかったことでした。「うれしいです。こんなふうにお客様が私のきものを気に 入ってくださって」。「是非また神戸にお越しください。」というたくさんのお客様 の声に送られて上田に帰られました。翌々年の2月には「丸太やオリジナルコレク ション・コンサート」として織で初めて音楽がモチーフの着物と帯「織路成(オリジ ナル)」を作っていただき二度目の個展を開いていただきました。最初の個展で小山 さんの着物をお作り頂いたお客様が小山さんに着物姿を見ていただこうと小山さんの 着物をお召くださってお越しくださいました。「うれしいですね。こんな風に自分が 作った着物を着ておられるのを見ることはほとんどないですから。とても勉強になり ます。」一昨年の10月には小山さんが上田紬の古布の風合いを復元したいと手引き 真綿の糸作りから取り組まれた紬を発表していただいた「祈りと回帰」を開催。初個 展からそのたびにご来場くださるお客様も多数おられるのですが回を重ねるごとに新 たな境地を展開される小山さんの創造力に皆さん感動されるのです。
 昨年8月、上田への五度目の訪問、いつも一緒におうかがいする娘と息子が小山さ んに親しみを感じているのか色々おしゃべりするのを楽しそうに耳をかたむけてくだ さる小山さん、「今日は萌ちゃんと弦くんのお話が聞けて良かったね」と奥様と交わ される笑顔がとてもさわやかでした。帰りの車中、「子供たちと小山さんが楽しそう におしゃべりしていたから肝心の作品を見せていただく時間がなくなってしまった ね」「それは店でのお楽しみ、きっと素敵な着物と帯をお客様に見ていただける よ」。3月1日(土)から9日(日)まで開かれる「小山憲市―織個展」、1日 (土)、2日(日)の二日間、小山さんが弊店にお越しくださいます。初めてのお客 様には出会いのとき、何度目かのお客様には再会のとき、小山さんもそのときを心待 ちしておられることでしょう。