きもの四方山話

第六話  きものの作り方

 「洋服」を、生地から誂え(オーダーメイド)される方は、今も沢山おられるでしょうが、やはり、既製服(レディーメイド)が一般的ではないでしょうか。しかし、「着物」では、今も、「反物」と呼ばれる生地をお選びいただいて、お客様のご要望で御仕立てをするのが普通です。勿論、「着物」にも、「仕立て上がり」の「着物」、「襦袢」、「コート」などがありますが、必ずしも主流ではありません。理由の一つは、販売される点数が、「洋服」に比べると、「着物」は、圧倒的に少ないことがあるでしょう。大量生産、大量消費の商品ではないのです。かろうじて、「ゆかた」が、大量に消費されることもあって、「仕立て上がり」の「ゆかた」が多数を占めています。
 「着物」をお買い求めになるお客様は、用途に応じて、「反物」をお選びになられます。「反物」と呼ばれる「着物」の生地は、「洋服」の生地が、「広幅」という、幅が1メートル前後あるのと異なって、約38センチほどの生地幅です。「着物」を測る単位である「尺寸」に換算すると、ほぼ「一尺」で、「一幅(ひとはば)」とも言い、人間の肩幅に近い寸法で、「人幅」なのです。「反物」の生地幅が「人幅」なのは、人間が生地を織るのに、人間の肩幅が無理なく織り易いからです。「洋服」の生地は、イギリスに端を発する産業革命によって、早い段階から、織物づくりが機械化され、「広幅」が定着しましたが、今日に至るまで、「手機(てばた)」と呼ばれる織機で手織りされる「反物」が残されている「着物」では、未だに、生地幅は「人幅」なのです。
 「着物」に限らず、「洋服」の生地など、布地は、すべて、「糸」を織り上げて出来ています。「着物」の場合、「麻」、「木綿」、などの植物繊維と、「絹」、「ウール」、などの動物繊維、「ポリエステル」、「テトロン」、などの化学繊維が、「糸」として用いられています。化学繊維以外の天然繊維のなかで、「絹」だけは、一本の「糸」が、約1500メートルの長さがありますが、他の、「麻」、「木綿」、「ウール」などは、一本一本の「糸」の長さは短くて、毛足の短い糸を撚り合わせることによって、長い糸にするのです。この作業を、「紡ぐ」と呼びます。「着物」を仕立てるのに必要な「反物」の長さは、約三丈五尺(約13メートル)です。「反物」には、大別して、「先染め」と「後染め」の二種類あります。「先染め」とは、「糸」の段階で、「糸」を染めて、染め上がった「色糸」で織り上げる「反物」のことです。「先染め」の「反物」は、「織物」とも呼ばれます。「後染め」とは、「糸」そのままの状態で「反物」に織り上げ、織りあがった「反物」(白生地と呼ばれています)を、様々な染色技法で染め上げるのです。「後染め」の「反物」は、「染物」とも呼ばれます。
 「先染め」の「着物」を代表するのは、「紬(つむぎ)」です。「紬(つむぎ)」の語源は、「紡ぐ(つむぐ)」です。「絹」の「糸」、「生糸」は、本来、一匹の蚕が吐き出した約1500メートルの細長い糸を撚り合わせて作られていますが、蚕が糸を吐き出して作った繭を食い破って成虫になった場合、その繭からは一本の長い「生糸」を取り出すことは出来ません。その繭は、屑繭と呼ばれるのですが、屑繭を集めて綿状にほぐしたものを「真綿」と呼び、「真綿」から紡ぎだした糸が「紬糸」で、「紬糸」で織り上げたのが「紬」です。「紬」は元来、養蚕農家が自家生産していましたので、全国各地に、「結城紬」、「上田紬」、など特徴のある「紬」が生産されています。「絹」の「先染め」の「着物」には、他に、「御召」、「大島紬」、などがありますが、それぞれ、「紬糸」ではなく、「生糸」を用いています。「絹糸」を用いない「先染め」の「反物」としては、「木綿」の「久留米絣」、「麻」の「小千谷縮」、などがあります。「後染め」の「着物」を代表するのは、「友禅染」、「伊勢型小紋」、「京絞り染」、「ろうけつ染」、などの染色技法を用いた、「留袖」、「振袖」、「訪問着」、「小紋」、などです。