去る八月二十一日、長野県上田市へ行きました。上田紬を制作されている小山憲市さんの工房をお訪ねするためです。弊店と小山憲市さんとのお付き合いはかれこれ十六年近くになるでしょうか。僕が小学生の頃にお会いし、それ以来夏になると上田を家族と訪れ、小山さんの工房にお伺いしました。いつも新作の着物を見せてくださり、ものづくりの近況を熱心にお話しくださいました。小学生から中学生へ、僕も少しずつ大きくなり、小山さんと社長との話の意味も少しずつ分かるようになったころ、自然と呉服屋の跡を継ぐことを決めました。小山さんの、ものづくりに掛ける想いを共有できる仕事って、誇りに思えることだなと感じたからでした。そして現在の僕があるわけですが、思えば僕のここまでの道のりを、小山さんはずっと見守ってくださっていたのです。
今年も、小山さんは新作の着物や帯を見せてくださいました。こっくりと深みのある色の着尺。「これは栗で染めました」と小山さん。科学染料には科学染料ならではの色があり、草木染には草木からしか得られない色があります。そのどちらもを使いながら理想の色風合いを求める小山さん。「この栗染からは良い色が出せたと思います」と満足そうな笑顔を見せてくださいました。
シャリ感と透け感のある着尺は単衣から夏向きに制作されたもの。「単衣や夏の時期も着物を着たいという方が増えています。そこで糸の精練から工夫し、少しシャリっとした爽やかな風合いの着物をつくりました。」
小山さんのお話をお伺いするたびに思うのですが、小山さんはいつも新しいアイディアを考えておられるのです。「精練を工夫したら違う風合いの糸ができるんじゃないか」「太い糸と細い糸の組み合わせを変えたら新しい表情がでるんじゃないか」「単衣や夏の時期にお召しいただくのにぴったりな色を染めてみよう」次々に生まれるアイディアを試行錯誤して着物に反映し、あたらしいものを生み出す。そのようにして小山さんはいつも新鮮なものづくりをされています。単衣から夏用につくったという着尺を広げながら「思ったとおり、すごくいい着物ができました」とお話ししてくださる小山さん。その言葉どおり、見せていただいた着物はどれも活き活きとした魅力に溢れていました。
つくるひとが、創造的に、誇りをもって制作に打ち込んで生まれたものは、その人の想いを宿します。本当に良いものは、そんなつくるひとの心が伝わってくるものなのです。ぜひ、小山憲市さんの着物を、その着物に宿った「おひとがら」と共に、味わってお召しいただきたいと思います。三木 弦 |