京都室町の「加納」は織物の専門問屋です。私が「丸太や」に入社してから、母や叔父に連れられて京都の問屋さんの新作発表会を見て回るようになりましたが、友禅の「千總」、帯の「川島」、小紋の「珍粋」、御召の「矢代仁」、などと並んで必ず拝見に伺ったのが織物の「加納」でした。「加納」は、大島紬や結城紬を始め、全国各地の伝統ある織物を取り扱っておられて、他の問屋さんと一味も二味も違った雰囲気で、社員の方々も皆さん専門知識をお持ちでした。何より商売に誇りを持っておられることが印象的でした。いつか「加納」の織物を販売できる呉服屋になりたい、それが目標になりました。
 「加納」は結城紬や大島紬だけではなく沖縄や薩摩、八丈島、能登、など全国の特色のある織物も取り扱っておられます。いつの頃からか、私は信州松本の「みさやま紬」が好きになりました。草木染で染められた穏やかで優しい色合い、手機で織った柔らかな風合い。呉服屋になった家内が自分で最初に買い求めたのが「みさやま紬」でした。夫婦そろって「みさやま紬」のファンになり、いつか「丸太や」店内で「みさやま紬」の発表会が開けないかと考えていました。すると「加納」の担当者が「みさやま紬を織られている横山俊一郎さんは、きっと久雄さんと気が合うと思いますからご紹介します」とおしゃってくださいました。
 阪神淡路大震災の2年前でしたが初めてお会いした横山俊一郎さんは実直そのもののお人柄でした。ものづくりについて訥々と、しかし真剣にお話くださいました。是非「丸太や」で個展を開催してくださいとお願いしました。ところがそろそろと思っていた矢先、震災が勃発しました。一ヶ月が過ぎ少し落ち着きかけた頃、「美しいキモノ」に立松和平さんが連載されていた「染めと織りと祈り」に「正直一途の布―松本・「みさやま紬」横山俊一郎さん」が紹介されていたのです。その記事がとても眩しくて思わず横山俊一郎さんにお電話をしました。「震災はどうでした、心配していたのです」とおっしゃっていただいて、無事だったこと、こういう時だからこそ今まで以上にがんばります、と申し上げると「こっちのほうが元気付けられました」とおっしゃってくださいました。
 その翌年、「丸太や」で初めて個展を開催していただいてから三度、「みさやま紬展」を開かせていただきましたが、このたび、4月14日(木)から19日(火)まで「みさやま紬 織人 横山俊一郎」を開催していただくにあたって、昨年8月に松本郊外に在る工房をお訪ねしました。それまでに三度工房をお訪ねしたのですが以前にも増して精力的に織物づくりに励まれておられました。お仕事がお忙しい中、お話が尽きなくて、横山俊一郎さんの織物づくりに懸ける気迫に圧倒されました。「結局、織りものづくりは人なんです」、その一言がすべてを語っていると思いました。「みさやま紬」は織人である横山俊一郎さんその人そのものなのです。