−−−−−

秋のたより
 
−−−−−



丸太やオリジナルコレクションコンサート
絞り染めきもの 寺田 豊 作
九月十六日(土)より二十四日(日)まで
地産地消という言葉をご存知ですか。ある地域で生産されたものをその地域で消費することを意味します。地域の中で自給自足するということでしょうか。地産地消という言葉が取り上げられるのは食料品についての話題が多いのですが、食の安全という観点から、どこで、だれが、どのように生産した食料品なのかを知ることが大切だ、と指摘されています。
地産地消が推奨される理由は、現在、日本人が消費する食材の相当多数が外国産であるからです。日本人自身が日々食する食材の出処を充分に把握できていないのは問題があるのではないか。確かに生産コストの違う外国産が大量に輸入され消費されるのには相応の根拠があります。しかしより安価であるという理由だけで外国産が多用されて良いのか。地産地消は重要な問題提議だと思います。
 外国産が多用されるのは何も食料品に限ったことでは勿論ありません。今や全ての消費材の相当多数が外国産です。最大の理由は「安い」という一言に尽きるでしょう。かつてはそれ相応の価格だったものが信じ難い値段で販売され、その大半は「MADE IN JAPAN」ではない。コストダウンの最大の要因は人件費で、とても国内の産地では対打ちできないのが現状です。しかし、はたしてそれで良いのか。食の安全、ではないですが何か大切なものが失われるのではないか、と危惧します。
 実は呉服業界も外国産の輸入品に圧倒され国内産地はどんどん疲弊しているのです。その走りは絞り染めでした。絞り染めはその技法上ほとんど手作業でいわば「手間の固まり」です。コストの大半は手間賃で機械化によるコストダウンが効かないので早い時期から韓国で生産されるようになり「韓国絞り」として一世を風靡しました。その韓国も次第に人件費が高騰してくるとより安価な労働力を求めて中国、ベトナムなどに生産が移動していきました。その結果、国内での絞り染めは激減し「京絞り」として長い歴史を誇ってきた京都でも絞職人の廃業が相次ぎ絶滅の危機といって過言ではありません。
 「京絞り 寺田」の寺田豊さんは「このままでは京絞りの技と心が絶えてしまう」と新たな取り組みを始められました。そのひとつは技術の継承です。「京絞り 寺田」が保有する絞り染めの裂地を見本に、どのようにその裂地が染められたかを復元する試みです。絞りの技法が解明できれば次の世代に受け渡すことが出来る。もうひとつは流通の見直しです。国内で生産すれば自ずとコストが上がる。現在の呉服業界の流通に乗れば末端価格はとても消費者の手の届く価格にはならない。販売先を呉服専門店に求めて自ら取引先の開拓に乗り出されたのです。全国の小売屋に飛び込んでいき、その一軒が弊店でした。
 一昨年九月、寺田豊さんとの出会いを頂き、昨年九月には「今ふたたび−京絞り寺田」を弊店にて開催することが出来ました。会期中、様々な技法を駆使した絞り染めの逸品をご覧頂き、かつてない廉価でご提供できてお客様にとても喜んでいただきました。しかし何より喜んでいただけたのは寺田豊さんご自身にお客様が直接着物や帯をご注文されたことです。着物や帯の柄を寺田さんに眼の前で描いて頂きお客様ご自身が好みの色を選ばれる。しばらくのお時間を頂いた後出来上がった着物や帯にどれほどご満足いただけたことでしょう。選ばれる場と作る場がすぐ間近に在るからこそ出来る。まさに地産地消。産地と消費地が近いからこそ消費者の思いが産地に届くのです。失われかけた大切なもの、寺田豊さんが伝えたい心と技は弊店のお客様にしっかりと届けられるのです。

 
−−−−−


十月一日(日)より九日(月)まで

 どうして「丸太やオリジナルコレクション コンサート」が始まったかご存知ですか。そもそもの始まりは14〜5年前、家内が「バイオリン柄の着物や帯が欲しい」と言い出したのがきっかけでした。当時、弊店は問屋から商品を仕入れて販売しておりましたので取引のあった問屋の新作展でバイオリン柄の着物や帯がないか探しました。しかし2〜3年探し続けたのですが全く!ありませんでした。私たちがバイオリン柄の着物や帯を探していることを知って、あるとき名和野要さんが「心斎橋の呉服屋さんがお客様から第九のコンサートを聞きに行く着物を、という注文を頂いて川島織物でト音記号の綴帯を創られましたよ」と教えていただきました。高価ではありますが綴織りなら1本から特注できます。「そうか、商品として作られていないのなら特注して創ればいいのだ」と気付きました。
 問題は誰に創ってもらうか、ということです。バイオリン、という西洋文化を代表する楽器を日本文化の代表である着物や帯にデザインする。下手をすると、とんでもないゲテモノができてしまう。丁度そのころ横山喜八郎さんという日本の染織界を代表する方とのご縁を頂きました。この方ならきっとバイオリンを着物や帯にデザインしてくださるのではないか、という予感が閃きました。初めてバイオリンの染帯ができあがったときの感動。ピアノだったら、音符だったら、と夢がふくらみました。夢はどんどん大きくなって「丸太やオリジナルコレクション コンサート」が生まれたのです。
 あのころ西洋音楽をモチーフにした着物や帯は全く!といっていいほどありませんでした。だから私たちは創ったのです。その着物や帯がとても新鮮だったから着物関係の雑誌や新聞に何度も紹介されました。すると「二匹目のどじょう」を狙っていつの間にかピアノやバイオリン、音符の着物や帯があっちこっちで次から次へと作られるようになったのです。「丸太やさん、この着物どうですか」と、そういう商品を弊店に持ち込まれる問屋がたくさんありました。ほとんどは志の無い安直なものでしたが中には成る程というものもありました。しかし弊店はオリジナルにこだわって、なぜかというと「着物が好き、音楽が好き」という私たちの思いを大切にしたいからオリジナルにこだわって、そういう商品には一切目もくれませんでした。
 今年の1月に川島織物の担当者が「弊社の本年度の企画はモーツァルト生誕250年で制作いたしましたので是非丸太やさんにご覧頂いてご感想を頂きたい」との案内を受けました。2月に開催された「川島コレクション モーツァルトとその時代」は「さすが川島織物」という出来映えでした。モーツァルトの音楽と、その音楽を生み出したロココ時代の宮廷文化が川島織物ならではのデザイン力と技術力で名古屋帯、袋帯、綴帯に昇華されているのです。それはとても弊店で真似の出来ない着物文化の頂点を究めるものでした。是非、弊店のお客様にもご覧頂きたい。おそらくそれは弊店が「丸太やオリジナルコレクション コンサート」以外で音楽をモチーフにした帯をご覧頂く最初にして最後のことでしょう。



−−−−−


まるたやフレンドリーコンサート
十月八日(日)より十五日(日)まで
PROGRAM
オール モーツァルト プログラム
10/8 SUN. ピアノ三重奏曲KV502変ロ長調/ピアノ四重奏曲KV493変ホ長調
島 敏子(Pf) 立花礼子(Vn) 三木成美(Va) 三木久雄(Vc)
9 MON. フルート四重奏曲KV285ニ長調/KV298イ長調/KV285bハ長調
宮名利育(Fl) 橋爪美紀子(Vn) 三木成美(Va) 三木久雄(Vc)
10 TUE. 弦楽四重奏曲 KV458変ロ長調 / KV155ニ長調
橋爪美紀子・橋本都恵(Vn) 三木成美(Va) 三木久雄(Vc)
11 WED. PAUSE(お休み)
12 THU. 弦楽五重奏曲 KV515 ハ長調
宮下和子・橋本都恵(Vn) 和田 香・三木成美(Va) 三木久雄(Vc)
13 FRI. ヴァイオリン協奏曲第五番 KV219イ長調 より U・V楽章 他
立花礼子(Vn) 上林きよみ(Pf)
14 SAT. ピアノ三重奏曲KV564ト長調/ピアノ四重奏曲KV478ト短調
上林きよみ(Pf) 立花礼子(Vn) 三木成美(Va) 三木久雄(Vc)
15 SUN. 思い出のモーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」他
上林きよみ(Pf) 山本恵一(Cla) 立花礼子・立花紀子(Vn)
三木成美(Va) 三木久雄(Vc)
会 場   神戸・元町 丸太や 2階 ギャラリー響 (定員25名)
 各日とも第一部14:00、第二部16:00開演 入場無料
定員25名のため入場をお断りする場合がございます。電話などによるご予約はお受けいたしておりません。また出演者の都合によりプログラムを予告なく変更する場合がございます。ご了承ください。
 丸太やミュージック・フレンズで、出演して頂いている方々のプロフィールもご紹介しています。

 2006年はモーツァルト生誕250年に当たります。年初来、音楽界は勿論、様々な分野で希代の大作曲家に因んだ催しが開かれました。私自身、高校生の頃からクラシック音楽を聞くようになり、とりわけモーツァルトは大好きでした。今、思い返すとモーツァルトが好きだったのは、勿論その音楽に魅せられた、ということではありますが、それだけではなく、天才であったとか、早逝したとか、スタンダールをはじめとする熱烈な賛美者がいたとか、語られたモーツァルトに眩惑された、という部分が無きにしも非ず、という気がいたします。大学でチェロを始め、下手ながら自分の手でモーツァルトの音楽に触れるようになって私なりにモーツァルトの音楽を感じるようになりました。一言でいうと「モーツァルトの音楽は素晴らしい」。
 この秋、弊店で私の好きなモーツァルトに因んだイベントを二つ開催いたします。ひとつは「川島コレクション モーツァルトとその時代」。もうひとつは「丸太やフレンドリーコンサート オール・モーツァルトプログラム」です。モーツァルトの魅力をご堪能いただければと企画いたしました。
 音楽評論家じみたことを申しあげるのは本意ではありませんが「モーツァルトの音楽は素晴らしい」という一言に少し付け加えさせていただくなら、古今東西、歴史上輩出した大作曲家の中でモーツァルトほどあらゆるジャンルに傑作を書き続けた作曲家はいない。バッハ、ベートーベン、シューベルト、ショパン、ブラームス、などなど素晴らしい音楽を書いた作曲家はたくさんおられますが、モーツァルトのように交響曲、協奏曲、管弦楽曲、室内楽曲、独奏曲、宗教曲、声楽曲、歌劇、のすべてに傑作を残した作曲家はおられません。
 だから、モーツァルトで一番好きな曲、を選ぶことほど難しい、しかし楽しいことはありません。あえて私が選ぶなら歌劇。「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」「コシ・ファン・トゥッテ」「魔笛」というまさに甲乙つけがたい大傑作の中から「コシ・ファン・トゥツテ」を選びます。人間の愚かさを朗らかに愛したモーツァルトその人を。
 
−−−−−


十一月十一日(土)より十二日(日)まで

 
−−−−−


十一月十八日(土)より二十六日(日)まで

 飛行機は早い。まして神戸空港からだとさらに早い。10月25日、朝7時過ぎに家を出て9時過ぎには鹿児島空港に降り立っていました。三度目の鹿児島。しかし今回ほど鹿児島が身近に 感じられたことはありません。勿論、その理由のひとつは鹿児島空港で私と家内を出迎えてくださった関健二郎さんとの3年を越えるお付き合いがあるからでしょう。
 鹿児島に早く着きすぎた私たちを関健二郎さんはかつて韓国から渡来した陶工が居住し薩摩藩の特産として薩摩焼の名品を生み出した美山に案内してくださいました。まず美山の窯元として著名な沈寿官窯を尋ねて庭に築かれた巨大な登り窯を見た後、展示室で薩摩焼を代表する白薩摩、黒薩摩、などの器を見せていただきました。次に尋ねたのは永吉窯で関健二郎さんの大のお気に入りの様子です。奥様は神戸のご出身とかで妙に親しみを覚えました。関さんは奥様と気の置けない仲のようで冗談を言いながら何点か買い求めておられました。私もワインやお酒を呑むのに良さそうなカップを家族四人分買い求めました。陶器と思えないほど軽くてとても気に入っています。美山を出て鹿児島市内に入るとすでにお昼時分になり、先に昼食を、と一度食べてみたかった鹿児島ラーメンを市内で有名なお店で頂きました。意外にもさっぱりした味で後味がとても良かったです。
 昼食を済ませ、路面電車が通る広い道路を車で走って関絹織物に着きました。玄関を入ると天井からドンドンという音、機を打ち込む音が身体に響いてきます。中からお父さんの関順一郎が出迎えてくださいました。お父さんは部屋いっぱいに所狭しと並べられた糸を手に取りながら糸作りについて愛児を慈しむように語ってくださいました。美しくもたおやかな糸に触れていることが生きがいのように。二階に上がると熟練の織子さんが織機に向かってドンドンと機織の真っ最中です。その中のお二人は鹿児島の織物協同組合から最近、優秀な技術者として表彰されたそうです。お兄さんの祐一郎さんは織機の下ごしらえで筬に縦糸を通す作業に没頭されていました。まさに針穴に糸を通すような作業で、そういう気の遠くなるような根を詰めた作業を関さんのご家族でなさるので織子さんも心置きなく機織に打ち込めるのだそうです。
 別棟の一室で織りあがった残糸の大島紬を見せていただきました。ひとつひとつ広げてくださるたびに家内は歓声を上げて素敵素敵を連発しています。確かに残糸の大島紬が素敵なのは、そのひとつひとつがどれもオンリーワンだということです。唯一度の糸との出会い。二度と織りたくても同じ糸には出会えない。一糸一会の織物。そこに織り込まれるのは糸に出会えた喜び、その糸で創る悦び。一昨年、去年、と二度、関織物の個展を開催し、たくさんのお客様に残糸の大島紬をお求め頂きました。お求め頂いた残糸の大島紬をどれほどお客様が楽しんでお召しくださっていることでしょう。着心地の良さ、着姿の美しさ、帯や小物の色あわせ。これほどに着る愉しみにあふれた着物がほかにあるでしょうか。11月18日(土)、19日(日)、関健二郎さんが「創る悦び」をお伝えするために鹿児島からお越しくださいます。関健二郎さんにお客様の「着る愉しみ」をご覧いただければ関健二郎さんの「創る悦び」はさらに増すことでしょう。それはお客様にとっても「着る愉しみ」が増すことに違いありません。