受 験
 もし結果が不合格に終わってもそれまで勉強してきたことが無駄になるわけではない。合格か不合格かによって左右されるような無意味な受験勉強をしてきたわけではない。と気がついてとても朗らかな気持ちになった三十数年前の自分を思い出しました。大切なのは結果ではない、経過だ。どうなったかではなく、どうしてきたかが大事なのだ。発表の日、もし不合格に終わったら息子にそう言い聞かせるつもりでした。そのコトバは伝えないまま再び思い出の中にしまいこみました。


録 音 会
 兵庫県佐用町に大撫山(おおなでさん)という山があって、その頂きに西はりま天文台という施設があるのですが、その側にスピカホールという木造の素晴らしい音楽堂があります。春と秋の「丸太やフレンドリーコンサート」のプログラムのいくつかをそのホールで録音するのが私の「道楽」なのですが、「道楽」という言葉は普通あまり良い意味で使われません。しかし「道楽」という字自体は文字通り「道」の「楽」しみ、という意味ですから決して悪いことではない。スピカホールでの録音は私にとって音楽の「道」の極めつけの「楽」しみなのです。


好 き な も の
 好きなもの三ツ。アナログレコード、オープンテープレコーダー、マニュアルカメラ。今どき音楽を聞くのにCDやMDですら時代遅れ、録音なんかする人いるのですか、デジタルカメラ全盛でフィルムカメラ自体珍しいのにマニュアルカメラなんて。時代錯誤も甚だしい、と言われればまさにその通り。でも、好きなんです。なんで好きなんだろう。音楽を聞く、録音する、写真を撮る、そのために今どきのやり方よりは少し余分に手間がかかる、時間がかかる。レコードに針を落とす、露出や距離を決めてシャッターを押す、そのひとつひとつの作業に手間がかかる分、時間がゆっくりと流れる。その手間と時間が好きなんだ。時代の流れに遅れないことは、それはそれで大事かもしれない。しかし、時代の流れを追いかけることで何か大切なものを見失ってはいないか。手間と時間を取り戻すこと、それは自分を取り戻すことかもしれません。


就 職 内 定
 なかなか決まらなかった娘の就職活動でしたが、とある印刷会社から内定を頂き泣イテイ喜ぶほどではありませんが親子とも内心ほっとしています。いよいよ社会人として独り立ちするわけですが、親として子育てめいたことをした覚えはなく、唯、こういう人間になってほしい、という願いが三つありました。一つは、自分で決められる人であってほしい。人生、何度か岐路に立つときがあります。自分の人生の行く先を自分で決めてほしい。二つ目は、創る人であってほしい。どんなにちっぽけなつまらないものであっても他人の真似ではなく自分自身を創ってほしい。三つ目は、他人の立場に立てる人であってほしい。他人を思いやる心を持ってほしい。親馬鹿を承知でいえばそういう人間に育ってくれました。