元町商店街を北へ、花隈公園、兵庫県庁、相楽園を通り過ぎて坂道を歩いてゆくと諏訪山公園に行き当たります。そこから山裾のスロープ状になった脇道を登ってゆくと金星台という高台があり神戸の街並みが眼下に一望できるのですが、その真ん中に大きな楠がゆったりと枝を広げて立っています。
その根元に置かれた石碑には「元町百年祭記念植樹 元町商店街連合会」と刻まれています。「先人樹を植えて後人その下に憩う」との言葉どおり元町商店街の先輩が植樹し大きく成長した楠が散策を楽しむ神戸市民にひとときの憩いを与えているのです。元町商店街も先輩諸氏の努力によって築きあげられた盤石の基礎があればこそ今なお神戸を代表する商業地として栄えているのです。来年、その樹が植えられてから三十年、元町が生まれて百三十年を迎えます。


役 年
 「厄年」とは元来は「役年」だという説を教えていただきました。町や村の共同体を維持管理する「役」をある年令「年」に達したとき順送りで受ける、それが本来の「役年」だ、というのです。成る程、さしずめ私は目下「役年」で元町商店街の「役」からはじまって神戸市の「政策提言会議」「都心活性化戦略会議」など身の程もわきまえず色々な「役」をお受けしています。結果、会議会議で「商売はいつするのですか」と家内に叱られて、ウーン、やっぱり「厄年」か。確かに商売が後手に回って本末転倒と反省するのですが各界でご活躍の人のご意見を親しく拝聴できるのは大変勉強になります。願わくば身に浴びたオーラが本業のどこかに反映して商売を通してお客様のお「役」にたてればまさに「役得」なのですが。


上 田 観 光
 「一度、ゆっくり上田を観光してください」、とこの夏、織物作家の小山憲市さんに市内の名所旧跡を案内していただきました。「ここに来ると創作のイメージが湧くんです」といわれた別所温泉安楽寺、森閑とした山腹に立つ国宝八角の三重塔は優美さの中に永遠の時を感じさせます。「時間が止まっていますね」。「古い上田紬も展示されてます」という上田城跡にある博物館。戦没画学生の作品を収蔵展示する「無言舘」、「気持ちが重くなるのですが、大事なことなので」。重要文化財の未完の三重塔が建つ前山寺への参道を登っていると石碑が眼に留まりました。「かけた情けは水に流し 受けた恩は石に刻め」。ハタトその逆をしかねない自分に気づいてどきっとしました。とりわけ震災後、たくさんの方から頂いたご厚志にいまだにお返しできないことが恥ずかしくも情けなくもあるのです。


山 茶 花
 庭に山茶花が咲いています。この夏、二度も三度も茶毒蛾に葉っぱを食い散らされた山茶花。気づいたときはもう遅い。殺虫剤を撒いてみてもみずみずしかった緑の葉はもとにはもどりません。その山茶花が冬の寒さのなかでたくさん花を咲かせている。花は命の輝き。山茶花が保ち続けた生きる命の靭さに心打たれます。冬来たりなば春遠からじ。春になると山茶花は命の息吹、新芽をふくらませることでしょう。緑の葉はふたたび甦るのです。