蛍  光  灯
 まだほんの子供の頃近所の電器屋さんを「蛍光灯のおじさん」と呼んでいました。反応の鈍い人、というような他意はありません。丁度蛍光灯が普及しはじめ我が家もひと部屋づつ白熱電球から蛍光灯に取り替えられたのですが、その工事に来てくださっていた電器屋さんが「蛍光灯のおじさん」というわけです。太陽光のように明るくて影ができない、寿命が長くて電気代も安い。子供心にも蛍光灯に変わってゆくことが印象的だったのでしょう。
 ところで今なお我が家では白熱電球がいくつか使われています。温かみのある光に落ち着きがあり、照らし出される陰影に趣があります。白熱電球には蛍光灯にない良さがあって場所によってはより雰囲気が合うのです。古いものも、新しいものも、それぞれに持ち味があってそれを活かして使い分けると、暮らしが少し豊に楽しくなります。


 私事で恐縮ですが十五年前結婚することになったときなぜ彼女と出会ったのか、と考えました。直接のきっかけは大阪シンフォニカーというオーケストラにふたりが在籍したということですが、入団するいきさつを振り返るといろいろな人との出会いがかかわっていました。もしそのひとつが欠けていたとしてもふたりは出会うことがなかっただろうと思うと縁という言葉でしか表現しえない何かを感じました。
 震災後復興への道を歩むなかでたくさんの良い御縁を戴きました。もしあのかたのお力添えがなかったら、お引き合わせがなかったら、困難な状況のなかをここまでたどりつけただろうか、とあらためて縁の不思議さ、有難さを痛感します。たしかに縁結びの神さまはいらっしゃると思います。


タ  ガ  メ
 この夏、我が家でタガメが生まれました。ご存知でない方のために書き添えると、タガメは体長6・5センチにもなる巨大な水棲昆虫です。三年前NHKの「生きもの地球紀行」という番組でタガメを知ってから、息子は「タガメ、タガメ」と今や幻といわれるタガメ探しに夢中になりました。兵庫県佐用郡上月町の吉田瑩子さんが協力して下さって、一昨年、昨年と一匹づつ見つけて下さったのですがこの春二匹ともあいついで死んでしまったのです。もうタガメのことはあきらめかけていたこの初夏、吉田さんがオスとメスを相前後してつかまえて下さいました。つがいになって一週間もたつかたたず、ついに首尾よく交尾し孵化したのです。それから五回の脱皮を繰り返し、八月の終わりには立派な成虫に育ちました。息子を見ていて執念は実るんだ、と元気づけられたこの夏でした。


職  業  欄
 職業欄に呉服屋と書くことに長い間ためらいがありました。祖父の代からの呉服屋、後を継ぐことに迷いはありませんでした。しかしなってみて「タンスのこやし」という言葉どおり着てもいただけない着物をお売りすることに後ろめたさがありました。
 いつの頃からか呉服屋であることに胸が張れるようになりました。きものの奥深さを知り、生活に彩りをあたえる大切な道具としてきものを愛してくださるお客様に恵まれたからです。きもの談義に花が咲く、共に語りあう喜びにまさるものはありません。