震    災
 その瞬間、ウソダと心の中で叫びました。地鳴りと直後の激しい揺れ、あらゆるものが落ち割れさける音。夢でも映画のシーンでもない、思いもつかなかった惨事がこの神戸に起きてしまったのだ。エライコトニナッタ、コレカラドウナルノダ。
 店が残った、と知ったときの安堵。一日も早く店を開けたい。しかし、非常の時に呉服屋に何が出来る、というためらい。結婚式で留袖を着るので足袋と半衿を、とお客様。店を開けてよかった。お役に立てたのだ。暮らしの中で心の中できものを求めて下さる方がいる限り呉服屋であり続けたい。
 瓦礫の街にも春は確実にやって来ます。またきものが着られるようになるといいですね。そうですね、その日が待ち遠しいですね。


千 里 の 道
人間は鳥ではないのに
なにか飛べそうな気になって
でも飛べなくて落ちこんだりします
「千里の道も五十センチ」
焦らずたゆまず一歩一歩
人間にできるのはそれだけなのです


ユ ー モ ア
 香港の実業家サイモン・マレー氏にお会いしたときのことです。かつてフランスの外人部隊に志願しアルジェリア内戦で何度も死線を越えてこられた氏に危機的状況に遭遇したとき大切なことは、とおたずねしたら「ユーモアを失わないこと」と答えて下さいました。「笑う門には福来る」我々日本人も良いコトバを持っています。


革    命
 「革命が必要だと思います」
 自然の恵や日本人の美意識の豊かさについて穏やかに語りかけておられた志村ふくみさんが「きもの」の仕事に携わる人々の状況の厳しさに触れられたときのことです。「革命」という思いがけない言葉がその人の口をついて出たのです。
 明治維新以降、日本人が近代合理主義を学んだことで得たものはたくさんあります。しかし失ったものも決して少なくはない。志村ふくみさんは日本人が「きもの」を棄てることで失うもののかけがえのなさを惜しまれる。
 志村ふくみさんが「革命」という激しい言葉を用いてまでも訴えようとされたのは、作る人も商う人も「きもの」に携わるすべての人々の意識の変革なくしては日本文化の精華たる「きもの」を守りぬくことはできない、という危機感なのでしょう。
 身の引き締まる思いがしました。