香    港
 井の中の蛙、大海を知らず。機会あって香港を訪れ痛感しました。立ち並ぶ高層ビル。その超モダンなフォルムは未来都市を思わせます。街には人と店と物があふれ、人々は知恵と労力の限りをつくして競いあい、香港経済は今なお活況を呈しています。裸一貫で中国本土から逃げのび、一夜にして財をなすサクセスストーリー。しかし五年後にせまった中国への返還につのる不安。世界は途方もなく広く、そして深いのです。


完    璧
 恥ずかしながらその昔オードリー・ヘップバーンのファンでした。二十数年たって「ローマの休日」を見なおして驚嘆しました。ユーモアとペーソス、光と影、初々しさと老練さ、その絶妙なバランス。まさに大人のおとぎ話でありながら絵空事に終わらないすみずみにまで行き届いたリアリティー。自分を含めて未熟さいい加減さにウンザリすることも多いのですが、同じ人間がかくも完璧なものをつくりえたという事実に出会うと、生きていることはいいことだと実感します。


想  像  力
 やはり僕達の国は残念だけれどなにか大切な所で道をまちがえたようですね

 さだましの「風に向かって立つライオン」という歌の中の詞です。たしかに悲観的な出来事もたくさんあります。それでもなお立派な仕事を成しとげる日本人もいます。「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「魔女の宅急便」「紅の豚」。ディズニーの名作に優るとも劣らない作品を生む宮崎駿。空を飛びたいという途方もない夢を追い続けて、いつか不可能を可能にする。人間の想像力に希望を繋ぎます。


自    戒
 「お客様は神様です」という言葉が流行語のようになった理由はふたつあります。ひとつは、商いのもっとも大切なものをこれほど簡潔に言い表した言葉はなかったからです。お客様のご愛顧があればこそ商いが成り立つのだ、という。とは逆にまたひとつは、客商売はお客様を怒らせたら損、どんな無理難題を押しつけられても表ではごもっとも、とへいへいして、裏では舌を出す卑屈な商売人根性をこれまた見事に言い得ていたからです。
 しかし三波春夫さんがおっしゃったのはまさしく前者の意味であり、三波春夫の歌を聴いて下さるお客様、喜んでくださるお客様がいらっしゃってこそ歌手三波春夫の今があるのだ、という感謝の思いを肝に銘じた言葉であったのでしょう。
 時にふと初心を忘れがちになることへの自戒です。