今年の正月はお天気も良く、過ごしやすい気候でした。皆様のどかな新年を迎えられたことと存じます。とはいえ、やはり早春の風はまだ冷たく、結城紬は、一人で作ることはできません。糸を取る人、絣を括る人、色を染める人、機を織る人など、それぞれ専門の技を持つ人たちによって、一つ一つの工程を経てやっと一反の着物が出来上がるのです。「たとえば糸だけでも、経糸の地糸と絣糸、緯糸の地糸と絣糸で、微妙に太さや質感の違う四種類の糸が必要です。これを、それぞれ四人の方が特徴に合わせて糸を取るのです」と藤貫さんが説明してくださいました。蚕の糸にしてほんの数本分のわずかな違いを使い分ける繊細さが求められる仕事です。
結城紬の工程は、リレーのバトンのようなもの。携わるすべての人が確かな技でバトンを繋ぎ続けて、ひとつの着物が生まれます。誰か一人でも欠けては、この風合いを生むことはできないのです。「だから、織りあがって、検査に合格して、初めてみんなホッとするんですよ。それぞれの仕事がちゃんと実を結んだ瞬間ですから」と藤貫さんは、反物が出来上がるときの喜びを話してくださいました。
結城紬は、最初からこのような作り方だったわけではありません。元々は、それぞれの家が自家用に地道に織っていたものが始まりです。それがやがて、より良いものを作りたいという思いや、より良いものを着たいという思いによって、少しずつ専門性の高い分業に変わっていったのです。たった一人ではできないことも、たくさんの知恵と技を合わせれば、より完成度の高い着物を作ることができます。「より着心地の良いものを」「より美しいものを」という探求心が結城紬を現在の作り方に育てていったのです。
「結城紬の風合いに勝るものは無い」という藤貫さんの自信に満ちた言葉は、この着物に携わる全ての人の思いを代弁しているようで、心に響きました。 |