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 結城紬…着物がお好きな方ならその名はご存知だと思います。数ある紬の中でも大島紬と並んで特に名高い最高級織物です。紬を愛する方にとっては憧れの逸品であり、一度は袖を通してみたいと思われる方も多いでしょう。しかし同時に、手の届かない高級品と思い、近付き難い着物と感じられる方もいらっしゃいます。本来、着心地の良さを求めて現在のかたちになった織物であるはずの結城紬。弊店としても、お客様にお勧めするなら実際に袖を通して楽しんでいただける結城紬をご紹介したいと、ずっと考えておりました。
 この度弊店で『結城紬展』を開催するきっかけとなったのは、「結城 龍田屋」の藤貫成一さんとの出会いでした。藤貫さんは、「着て楽しむ結城紬」を目指し、伝統を継承しつつ現代の着物シーンに合うものづくりに取り組まれています。結城紬が守ってきた技法を一つひとつ積み重ね、美しく、着心地の良い着物をつくられているのです。藤貫さんとお会いし、その姿勢と作品に触れ、ぜひこの方と結城紬展を開催したいと強く思いました。
 去る八月二七日、私たちは藤貫さんにご案内いただき、結城紬のふるさとを訪ねました。神戸空港から茨城空港まで約一時間。そこからさらに車で一時間半ほど行くと、結城市と小山市にまたがって広がる結城紬の産地に着きます。結城紬は制作工程ごとに細かな分業になっており、それぞれ特別な技能を要します。今回はその中から「糸つむぎ」 「染色」 「織り」 「湯のし」を見学させていただきました。

「糸つむぎ」
 結城紬の最大の特徴は糸です。結城紬の糸は、繭を綿状にした真綿からつくられます。今回見学させていただいたのは綿から手で糸を引き出す「手引き真綿糸」。真綿から、唾で整えながら糸を引き出していきます。特徴は撚りをかけないこと。そのため、糸になっても真綿のような風合いを保ち、織り上げた布はフェルトのように緊密に絡み合った独特の生地風になります。糸の太さなどはすべて手加減。指の感覚が頼りです。取る人によって糸の太さなどが違うので、出来上がった糸の具合を見ながら経糸用、緯糸用、絣糸用などの用途に分けて使います。

「染色」
 次にご案内いただいたのは染色工房。実は二二年前にも産地見学で訪れたことのあるところで、懐かしく拝見させていただきました。ちょうど「思川桜染め」をされているところで、綺麗な桜色の糸を見せていただきました。思川桜は小山市原産の桜で、その枝を煮出した染料はやさしい桜色に染まります。長年使い続けている藍瓶も見せていただきました。染色にも繊細な注意力と技量が必要です。特に絣糸は模様をはっきりと仕上げるため、糸の状態や絣部分の括り具合を見ながら染め方を判断します。工房のご主人は「この技術を何とか残し続けたい」という熱い思いを語ってくださいました。

「地機織」
 結城紬の特徴である真綿糸は、真綿の風合いを保っていますが、毛羽立ちが多く非常に織りにくい糸でもあります。この結城の真綿糸を織るために使われるのが地機という原始的な機です。通常使われる高機のように経糸を強い張力で張り続けるのではなく、人の腰に経糸を固定することで張力を調節できるようになっており、大きな杼を使って打ち込むことで、真綿糸をしっかりと織り込むことができます。日本中の織物産地で高機が主流になる中、結城紬が今でもこの地機で織り続けるのは、「手引き真綿糸を地機で織る」ことが結城紬の風合いを決定付ける根幹だからでしょう。

「湯のし」
 結城紬は織りやすくするため糸に糊付けがされています。そのため、ふわりとした真綿の感触を期待して糊抜き前の反物を手に取ると、思っていたより固いと感じるかもしれません。結城紬は糊を落として初めて本来の風合いとなるのです。この大事な最後の工程が「湯のし」です。糊で固められていた結城紬は、糸の奥まで浸み込んだ糊を落とし、天日で充分乾かすと、真綿の風合いに戻ります。湯のしもまた反物ごとに繊細なさじ加減が必要です。「結城紬の着心地を最後に決めるのは自分の仕事」という工房のご主人の言葉には職人としての自負を感じました。

 このように、結城紬が守ってきたのは風合いと着心地です。美しく、着心地良く、細部まで人の手のぬくもりが感じられるような着物。それが結城紬の本来の姿なのです。藤貫さんはこの原点に立ち返り、何度も袖を通したくなる結城紬を目指して、日々取り組まれています。ぜひこの風合いをお手にとってお確かめください。
 藤貫成一さんは九月二十日(土)から二十二日(月)のお昼ごろまで弊店にお越しくださいます。藤貫さんご自身による地機織の実演もございます。皆様のご来店を心よりお待ちいたしております。



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