去る九月、関健二郎さんの工房を訪ねに鹿児島へ行ってまいりました。大島紬をルーツにしながら大島紬の枠に捉われない自由なものづくりをされている関健二郎さん。自ら『創作織』と名付けたその織物が生まれる現場を見学させていただきました。
 神戸から鹿児島までは飛行機で一時間ほど。空港から鹿児島中央駅まで向かうと、関健二郎さんが迎えにきてくださいました。まずお連れいただいたのは桜島。最近記録的な大噴火を起こしてニュースになりましたが、このときも少し噴煙を上げていました。「細かい灰は家の中まで入ってきて大変だけど、鹿児島の人にとっては慣れっこだから」と笑う関さん。この美しい自然のエネルギーが、関さんを通して創作織の中に注ぎ込まれます。
 創作織が生まれる場所、『関絹織物』の工房へ案内していただきました。まず目に入るのは壁の棚に収められた無数の糸、糸、糸。色の系統ごとに分けられていますが、同じような色の中にも微妙な違いがあり、壁一面が見事なグラデーションに見えます。「これは車輪梅、これは正藍、こっちは紫根・・・」ひとつひとつ関さんが色の説明をしてくださいます。ベースになるのは泥染めを重ねてしっとり柔らかくこなされた大島紬特有の糸。関さんの創作織の、体に添うなめらかな風合いの基です。これらの糸は一本だけ使うのではなく、複数の糸を組み合わせることによって更に奥深い表情が生まれます。ちょうど機を織っておられた関健二郎さんのお父さんにもお話をお聞かせいただきました。「こうしていろいろな個性のある糸を並べてみて、この糸とこの糸は相性が良さそうだとか、この糸を足したらアクセントになるとか、想像しながら織り進めます。また全く予想していなかった良さが生まれたりもするから面白いんです」と、手に取った糸を愛おしそうに見ながらお父さんはお話くださいました。 
 工房の二階は機場になっています。関さんの創作織は全て手機で織られています。使いこまれた織機が並んだ機場へ案内していただきました。「少し織ってみましょう」といって関さんは一台の機に座りました。機にも一台一台個性があり、それを手で調整しながら織っていきます。機織の音といえば「トントンカラリ」という雰囲気を想像しますが、関さんの機の音は「ドンッドンッ」という力強い音。緯糸を渡して打ち込み、経糸を踏みかえるという一連の動作を無駄なく連続させる織の技で、密度の濃い織り上りになるのです。 既成概念に捉われない、唯一無二のものづくりを目指す関健二郎さんの創作織。「純粋に、着る人を美しくする、そんな衣を織りたい」という想いで生まれた品々は、男女を問わず、お召しになられる方の暮らしをより豊かに味わい深くしてくれるはずです。一度その身に纏えば、何度でも袖を通したくなる、そんな関健二郎さんの創作織を、ぜひ味わってみてください。
 
 関健二郎さんは、十一月二日(土)と、三日(日)の二日間、遠路鹿児島からご来店くださって、皆様に、楽しく、布の話をお聞かせくださいます。
 お忙しいこととは存じますが、万障お繰りあわせのうえお越しくださいますよう、お待ちいたしております。
三木 弦

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出品作品の一例です。
ご期待ください!