絞り染めは、その技法上、他の染色法のように自由自在に精緻な文様を描くことはできません。しかし絞り染め固有の技法上の制約が、逆に、絞り染め独自の文様の意匠化を生み、現実の事象を超えた象徴性を創り出したのです。しかし文様の非現実性は稚拙さに繋がりかねません。絞り染めで如何に事象を文様として表現するのかの感性が問われる所以です。
 絞り染めの自ずからなる象徴性が美の光輝を放つか否かは、如何なる色で染めるのか、染色の是非、当否によって決定付けられます。創り手の色彩感覚の質こそが作品のすべてなのです。寺田豊さんの作品の完成度の高さは、まさに色彩感覚にあります。絶妙な色の選択、配合によってのみ、作品の素晴しさは生まれるのです。
 過去、お客様のご注文で寺田豊さんに、訪問着、付下げ、名古屋帯を別染していただきました。染め上がった作品にお客様が、どれほど喜ばれ満たされたことでしょう。何より、その色に。この度の個展におきましても、会場にてお客様のご要望を承り、寺田豊さんへの別染のご注文をお受けいたします。「色が命」、色こそ命なのです。