去る五月七日、服部秀司さんにご案内いただき、抓掻本綴の工房を見学しました。僕がまだ綴を織るところを見たことがなかったので、急なお願いにもかかわらず、快く引き受けてくださいました。
 「ここで織っています」と案内していただいたのは、マンションの一室でした。室内の窓際に二台の手機があり、その内一台で職人の方が綴を織られていました。「手機で織る綴はそれほど大きな設備がいらないので、昔は皆自宅でコツコツ織っていたんです」と服部さんが教えてくださいました。織っていたのは丁度帯の太鼓の部分で、唐子人形の柄でした。下絵が置いてあり、それを見ながら織りますが、どのように織るかは職人のセンスによるのだそうです。「人の顔を織らせたらこの方が一番」と服部さんは仰っていました。綴は色の数だけ糸を用意し、柄の幅だけ織っていきます。この唐子の柄は服にも七宝の柄が入っていたり、細かい柄でした。柄の一部を少し織っては別の柄の部分を少し織り、ちょっとずつ織り進めていきます。糸を寄せるのには櫛を使い、櫛を使えないような細かい部分は櫛のような切れ込みを入れた指の爪を使って糸を寄せます。全体の張力が一定でないと帯になったときに表面が波打ってしまうので、一部分ずつ織りながらも全体の調子を合わせながらの作業です。
 服部さんがこの仕事を継いだとき、綴帯のイメージについて「固くて、締めにくくて、色数が多くて、柄が面白くなくて、値段が高い」という風に言われたことがあり、ショックを受けたのだそうです。綴の帯がそのように思われるようになったのには色々な理由があるそうですが、服部さんはこの綴に対するイメージを覆すような帯を目指して、今の帯作りにたどり着かれたのだそうです。そして生まれたのが「しなやかで、結びやすく、色がシンプルで、柄がモダンで、値段を抑えた」服部綴工房の帯なのです。生地風の特徴は、しっかりした張りのある経(たて)糸に、しなやかな緯(よこ)糸を手機でたっぷり織り込むことで、むっくりとしてしなやかで、かつ帯としての丁度良い張りがあって締め味の良い風合いになっています。色と柄は、色数を抑え、柄もシンプルな柄にすることで、紬のようなカジュアルから訪問着などのフォーマルにまで幅広く使えるものになっています。色柄をシンプルにすることで価格も抑えられることになりました。
 僕の母も服部さんの綴帯を一つ持っています。ベージュ地にピアノの鍵盤をデザインした柄の帯です。仕事柄よく着物を着るのですが、この綴の帯を結ぶことがとても多いように思います。母曰く「結びやすくて、どんな着物にも合う使いやすい帯だから」ということでした。使いやすく、ついつい結びたくなるような綴帯。これこそ服部さんの目指した綴帯のあり方です。ちなみに母の帯は「楽器をモチーフにした柄の帯」を作ってほしいという母の願いを服部さんが叶えてくださった別誂えの帯。服部さんは別誂えもよく引き受けてくださいます。綴れは一本から織ることができるので、細かな注文をかたちにすることができるのです。そこで、男性用の帯はお作りにならないのですかとお尋ねすると「ご注文いただければ男性用の角帯も一本から織りますよ」とのお返事が!僕もいつか服部さんに角帯を作っていただきたいなぁ〜。

ぜひ、ご来店いただき、実物をご覧ください。お待ちいたしております。