本友禅染の染色作家、木戸源生さんとのご縁を頂いたのは3年前、服部秀司さんの抓掻本綴の個展を開催中のことでした。「木戸源生さんという本友禅染の作家さんがいらっしゃるのですが、木戸源生さんほど絵のお上手な方はおられません。日本一ですね」とおっしゃっられたのです。丁度のその時、さるお客様から、愛犬のパピオンで染帯を創って欲しい、というご注文を頂いていました。とても難しいご注文でしたので、お受けはしたものの、さて、どなたに制作していただけるのか、困っていたところでした。服部秀司さんにご相談すると、「木戸源生さんなら、どんな題材でも描いてくださいます。よかったらご紹介いたします」とおっしゃってくださったのです。
 木戸源生さんは事も無げに依頼を引き受けてくださり、パピオンをデザインした染帯を制作してくださったのですが、どれ程、お客様がお喜びになられたことでしょう。以来、今日に至るまで、たくさんのお客様から、それぞれに思い思いのテーマを頂戴し、着物や帯、コート、羽織を制作していただきました。木戸源生さんは、どのようなテーマであれ、物怖じせず引き受けられるのですが、本来であれば、とても至難なことです。なぜなら、お客様から頂戴するテーマのほとんどは、かつて着物の世界に描かれたことの無かったモチーフだからです。参考にすべき見本が無い。
 木戸源生さんの染色技法は本友禅染という最も古典的な技法です。木戸源生さんは間違いなく本友禅染の第一人者です。それは本友禅染の技法を最高に極めておられることに他なりません。そして本友禅染という最も古典的な技法を最高度に駆使して、弊店のお客様のために、かつて着物の世界に存在しなかった最新の題材で創作してくださるのです。「温故知新」という言葉ほど木戸源生さんの芸術を表現するに相応しい言葉はありません。