去る十月十四日、京都へ森康次さんの工房をお訪ねしました。工房は上賀茂神社のそばにあるのですが、土壁が続く閑静な町でした。都会で忙しく動き回っているときには感じられない空気が、そこにはありました。秋の気配。その昔、目には見えなくても肌で感じることのできた繊細な季節感が、そこではまだ生きているように思いました。
 森康次さんの工房は、そんな京都の町の一角にありました。工房に上らせていただきましたが、そこは畳敷きの小さな部屋で、二台の刺繍台が置いてあるだけでした。刺繍台には作業中の作品が張ってありました。「今度の個展のときに、この子が結ぶ帯をつくっています」と、お弟子さんのために作られている帯でした。着るひとのことを思いながら一針一針縫っていくから、森さんの刺繍は景色に溶け込むような、自然な風合いがあるのでしょうか。
 森さんの刺繍は、かたち無きものにかたちを与え、留まることのできない時間をも、布の上に縫いとめているかのようなデザインや色合いです。そして何より、着ることを大事にされたお召し物です。是非、皆様にもお召しいただきたいと思います。   (三木 弦)
アトリエ森 繍 工房見学