本を読むのは、それなりに根気がいります。弱冠の知識と経験も。そして何より、時間が。しかし、場所はいらない。お金も、そんなにいらない。で、本を読んで得られるものは限りなく大きい。人類の、世界の、歴史の遺産を我がものにすることができる。想像力さえあれば。想像力、という魔法の力で、ほんのひととき、時空を越えて旅に出ませんか。

 高校入試で合格したあと、学校から入学までに読んでおくように、と課題図書が与えられました。福沢諭吉『学問のススメ』、丸山政男『日本の思想』、大野晋『日本語の年輪』、池田潔『自由と規律』の四冊でした。それまで読書の習慣のなかった私には、どの本も難解で全くといってよいほど分かりませんでしたが、今振り返ると、当時の高校の教育理念がいかに立派であったかが良く理解できます。分からないなりにその四冊に触れたことはきっと私の人生に少なからぬ影響を与えたことでしょう。


『 学問のすすめ 』  福沢諭吉/岩波文庫/岩波書店
 「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと云えり」と高らかに革命的な宣言をした大思想家福沢諭吉は、しかし後年、脱亜論で治者の論理に転向します。なぜ平等主義から支配被支配の非平等主義に転換したのか。学生時代以来のわたしの宿題です。


『 日本政治思想史研究 』  丸山真男
 生涯の主題「伊藤仁斎」を私に与えてくださった著述。精緻な論理で展開される論述に圧倒されました。戦時下という極限的な状況の中で書かれたことを知ると感動します。思想が社会を変え得ることを明らかにした名著です。


『 美と宗教の発見 』  梅原猛/筑摩書房
 梅原猛の著述からは、歴史上の人間であれ、事件であれ、事物であれ、なまなましく甦り、読むものに迫ってきます。歴史の闇の中に埋もれた真相が明らかになる。そのド迫力に圧倒されます。真相を暴く、とはそういうことなのでしょう。


『 旅の空の下で 』  森有正/筑摩書房
 時は流れる、眼には見えないほど、おだやかにゆっくりと。しかし時は、時の経過をしっかりと刻んでいく。自然のうえに、人間のうえに、社会のうえに。時の経過が、年輪のように刻まれた積層が文化なのだ。その厚みに圧倒され、たじろぎながら、引き下がらないで、新たな時の成熟を待つ。文化がそこに生まれます。