| 「大阪シンフォニカー」でめぐり逢ったビオラを弾く女性、家内は京都市立芸術大学音楽学部でバイオリンを専攻し、卒業後、中学校の音楽教師を勤めながら恩師の岩淵竜太郎先生の勧めで「大阪シンフォニカー」の創設に参加していました。結婚後、教師を退職し「丸太や」で一緒に呉服業に携わることになったのですが、呉服屋になって、お客様に「きもの」をお勧めするようになり、まず自分が「きもの」を着て、「きもの」を「身に付けたい」と考えたのです。そして「きもの」を着れば着るほど、「きもの」の良さ、奥深さを知るようになりました。ごく普通の女性である家内が、この着物、あの帯が欲しい、と「きもの」に魅せられていく姿に、私は呉服屋の未来を見ました。「きもの」は今も、求められているのだ。 しかし、4歳のときから肌身離さず持ち続けていたバイオリンが、「きもの」を着ると離れてしまう。「きもの」を着たときもバイオリンを離したくない。いつしか家内は、バイオリンがデザインされた着物や帯がないか、と求め始めたのです。しかし、いくら探してもバイオリン柄の着物や帯は見つかりません。見つからないなら作っていただこう。横山喜八郎さんとの出会いを頂いてバイオリンの染帯が生まれました。「丸太やオリジナルコレクション コンサート」の誕生です。家内と私との幸運な出会いから、「きもの」と「音楽」の幸福な出会いが生まれたのです。 呉服屋になって34年、結婚して25年、私の呉服屋人生は順風満帆というわけではありません。失意の時期、倒産の危機、バブル崩壊、震災。無我夢中でがんばってきました。演奏活動、商店街活動、多事多忙でした。しかし、今、未来に光が見える。その光を目指して一歩一歩、前に進もう。そう思えるようになりました。少し気持ちがゆったりとして、ふと我に帰りたくなりました。「本でも読もう」。かつて読書が趣味、の時期がありました。しかし、結婚して子供が生まれ、商売が大変で、練習も多忙で、じっくり本を読むことがなくなっていたのです。「日本の歴史」、中央公論社が発刊した全26巻の「日本の歴史」のうちの15巻が本棚にあります。高校、大学の間に買い求めたものです。生来の歴史好きの虫が再びうずきました。「読み返そう」。 第一巻から「日本の歴史」を読み返し始めて、驚くほど面白い。なぜこんなに面白いのだろう。活字の向こうに人間が見えてくる。いつの時代も変わらない人間が。その喜び、悲しみ、怒り、嘆き。愛が、望みが、妬みが、愉しみが。なぜだろう。高校生や大学生のとき見えてこなかった人間が、なぜ生き生きと見えてくるのだろう。あれから30年、40年、自分なりに歩んできた人生、人間として、呉服屋として、重ねてきたその人生経験が、「歴史」のなかに「人間」を見る眼を養ったのではないか。だとしたら、自分なりに見えてきた「歴史」を書こう。呉服屋として。 |