友禅染作家・木戸源生さんが「私に無い感性を持った優秀な女性作家がいるので、ぜひ作品をご覧いただきたい」と、原田今日子さんをご紹介くださったのは二〇一〇年のことでした。木戸源生さんの工房で初めてお会いした原田さんは、物静かで、「まだ自作は多くないのですが」と言ってそっと作品を広げてくださいました。その作品は、まるで生命力が溢れ出ているようで、友禅染という技法の表現力を改めて感じさせられる力のあるものでした。以来、弊店で木戸源生さんの作品展の折には原田今日子さんの作品もいくつか出品いただいておりましたが、この度は原田今日子さんの作品をご覧いただく初個展を開催させていただきます。
 原田今日子さんは、友禅図案家のお父様、能面作家のお母様の間に生まれ、友禅の図案を塗り絵にして遊ぶほど、幼いころから和の文化に囲まれて育ったそうです。自然と友禅染の道に進むことを考えていたそうですが、同じような花鳥風月の模様を扱い続けることに疑問を感じ、一時は染織から離れ、別の仕事を目指したことも。そんな原田さんに転機が訪れたのは、故・石田凱宣さんとの出会いだったそうです。伝統に捉われない、自由な文様表現をされていた石田凱宣さんの作品に魅せられ、以後は独自の世界を友禅染で表現する道に進まれ、今日に至ります。
 原田今日子さんの表現する世界は、他のどんな作品にもない独自なものです。それは原田今日子さんの「まだ誰も見たことのないものを描きたい」という制作姿勢の表れです。目にしたものを、見たままでなく、対象を何度も観察し、自身の中で何を描きたいのかを突き詰め、そして見えてきた世界を布に表現するのです。
 「たとえば、銀杏の模様のものはありふれていますよね。当たり前の銀杏は描きたくない。だから、何度も銀杏の木や葉を観察して、まずはきちんと正確なスケッチを描きます。そして、銀杏を美しいと思うのはなぜだろう、どこに一番銀杏の美しさがあるのだとうと、考えるんです。そして私が美しいと感じたのは、銀杏の葉が一枚ではなく、一つの点から群を成すように広がっていること、そして、もっとも美しく色付いたときに、一斉に散ることでした。一斉に舞う葉を群として描くことで、銀杏の葉にとってクライマックスといえる散り際の美しさを表現したいと思いました」と話し、制作途中の銀杏をモチーフにした作品を見せてくださった原田さん。これほどまでに、一つの模様に対して深く考えている方は、なかなかいらっしゃらないのではないかと感じました。私と同じ景色を見たとしても、きっと原田さんには私には見ることのできない世界を見ているのではないかと、そんな風にも感じました。誰も見たことのない世界を表現するのは、たやすいことではありません。 長い歴史の中で醸成された日本の文様はもちろん魅力的ですが、それら古典文様も、その文様の存在価値や意味を問い続けられ、残ってきたものです。描くもののことを考え抜き、心に浮かぶ情景を描ききるプロセスを抜きに、本当に価値あるものは生まれないのではないでしょうか。原田さんが描く作品は、その一つ一に物語を宿しているのがわかります。「世の中にたくさんの着物があり、染色家の方もたくさんいらっしゃる中で、私が作る意味を作品の中で問い続けたい」と語る原田さん。 初めてお会いしてから今日まで、ぶれることなく貫いているその姿勢が、作品にも表れているように思います。
 着物は衣服です。ですが、作るものの思いによっては、単に衣服であることを越え、芸術としての価値を帯びることができる、世界でも数少ないものの一つです。この度の個展では、原田さんの初期作品から、公募展の受賞作品、そして最新作まで、原田さんのこれまでの歩みを、作品を通してご覧いただきたいと思います。原田今日子さんが、真剣に向き合い、そして見出した世界に一つだけの美しさを、ぜひお手に取ってご覧ください。

1991年 京都市銅陀美術工芸高等学校 卒業
1993年 嵯峨美術短期大学 卒業
1996年 石田美術工芸 入門
石田凱宣に師事 修行に入る
2004年 京都彩芸美術協会 青年部に入会
2005年 第50回彩芸展青年会の部 京都新聞社賞 受賞
2007年 独立
染・四君子の会に入会
木戸源生 指導の元、神泉苑大念仏 狂言衣裳の
 制作奉納に参加
2008年 第53回彩芸展 青年会の部 京都市長賞 受賞
2010年 京都工芸ビエンナーレ 京都府美術工芸新鋭展 入選
(社)日本染織作家協会
 第13回関西支部染織展 奨励賞
2016年 「綺羅暦展」手描友禅作家五人展
京都市勧業館みやこめっせ
2017年 日本染色作家協会関西支部展 佳作入賞



 源氏物語をテーマに、喜怒哀楽の感情と向き合い、苦悩しながら、それを乗り越え昇華していく女性の心の様子を表現しました。女性の燃える感情を青白い炎の文様に、昇華した心を螢の光に託しています。
 野花のたくましさと儚さを、白日のお花畑に表現しました。天に向かって伸びるカラスノエンドウの生命力をリズミックなタッチで描いています。2010年の京都府美術工芸新鋭展に出品し、入選しました。

 花から蝶が生まれ、羽ばたいていく様子を表現しています。群になった花の中から、一匹一匹蝶が飛び立っていく様に、命のあり様を表現しました。黒地の生地には金糸が織り込まれていて、幻想的に輝きます。
 太古の深海より、生命が誕生し、繁栄していく様子をイメージしています。草木も動物も、生命の歴史をたどれば全て海より生まれた原始の命にたどり着くのではないかと思い、全ての生命の根源を描きました。
 銀杏の葉が群れをなして舞い散る様子を描きました。銀杏の葉にとって、最も美しく、もっとも儚い瞬間である散り際を、20世紀末の美術に見られる色調を参考に表現しています。

 空から大粒の雪が生い茂る深緑の葉の上にはらはらと舞い降りた。雪は一瞬で止んだが、辺りを見渡すと一面が真っ白いまだら模様の世界へと変わっていた・・・山中で偶然出会った幻想的な風景を帯に表現しました。