この度、丸太やに就職することになりました、三木 弦 です。呉服屋という職業を選んだのは、中学三年のころのことですが、志のわりに、さしたる勉強も修行もしないまま、大学では、よく言えば自由に過ごしてきたため、結局、着物のことをほとんど知らぬまま、就職の日を迎えることとなってしまいました。しかし、自由に過ごした大学生活で、私は、人生において、とても大切なものを多く学びました。専攻の経営学部では、企業を支える人のちからの大切さを。課外活動のオーケストラ部では、信じ合い、助け合うこと、そして文化に対して、真摯に取り組むことの大切さを。
 去る3月13日に、社長とともに研修のため、このたび弊店で個展を開いていただく、上田紬の小山さんの工房を訪ね、製作現場を見学させていただきました。糸の精練から着物が織りあがるまで、実に多くの工程がありました。そのすべてに、小山さんは、惜しみない労力を払っておられました。驚いたのは、着物の制作が、伝統的技術や感性だけでなく、科学的知識や膨大なデータ、それと、体力も必要だということでした。
「たくさんの工程の中で、どこかに80点のものがあったら、他のすべてが100点でも、出来上がったものは80点になってしまう。だから、何一つ、手をぬくことはできないんだよ。」と小山さんはおっしゃられていました。そしてそれは、販売にも言えるのではないかと思います。100点のものを、80点で売ってはいけない。
果たして自分は、100点の仕事ができるようになるだろうか? 小山さんの言葉に、身の引き締まる思いをしました。
 私はまだ、着物のことをほとんど知りません。どんな人がどんなふうに作り、どんな人が着ているのか、そこにどんな思いがあるのか。私は、どんなものを、どんな人に着ていただきたいのかも、まだわかりません。
それをこれから丸太やで、作り手の方と、お客様とかかわっていく中で、学んでいきたいと思います。
若輩者ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。
平成21年 3月 25日
三木 弦