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上 田 か ら の 手 紙

 『信州では朝夕と冷え込むようになり上田から遠く見えるアルプスの山々も白く姿を変える季節となりました。 里での初雪もすぐそこまできているようです。
 過日の丸太や様での展覧会では大変お世話になりまして本当にありがとうございました。 神戸へ向かう電車の中、人は来てくれるだろうか、 心に残ってもらえるだろうか・・など思いをめぐらせていました。 わずか二日間ですがいろいろな方と話しができました。 その話の中には次へのものづくりのヒントがたくさんありました。又、 こんなにも売れて良いのだろうかと驚きととまどいの二日間でもありました。 何よりもうれしかったのは気軽に来てくれるお客様とそれを飾らず受け入れる丸太やさん、 そして気楽にふるまえる自分でした。 お客様が楽しく話しをされじっくりと作品を見てもらう。 むりやり売りつけるわけでもなく、まるでギャラリーのような、 本当の意味で作品を買っていただいた、そんな気持ちでいっぱいでした。
 今振り返っても、 丸太やさんのようなお店があるのだという驚きと認識はこれからの私にとってどれほど励みになるかわかりません。 私は作り手です。どんな状況であれよいきものを作ってがんばろうと思います。 今後ともよろしくお願い致します。
 これから益々寒くなってきますがかぜなどひかぬよう御自愛ください。 小山憲市』



 一昨年の九月、長野県上田市の織物作家小山憲市さんの個展 「織ふたたび」を弊店で開催したのですが、 そのあと届いた手紙には小山さんの誠実な人柄がにじみ出ていて心を打たれました。 遠路ワザワザ神戸まで来ていただき喜んで帰って下さったことが文面から伝わってきてホッとしたことを昨日のことのように思い出します。
 「きものに未来はあるか」と問われたら即座に「あります」 と答えますがその確信の拠り所はふたつあります。 ひとつは小山憲市さんのように今なおきものに夢をたくし素晴らしいきものを作り続けておられる製作者がいらっしゃることです。 もうひとつはきものを愛し生きることの喜びとしてきものを大切にして下さるお客様がふえていることです。
 丸太やはきものの「作り手」と「使い手」がきものを通して良い形で出会えるよう 「繋ぎ手」でありたいと念じてきました。小山さんが弊店に来られた二日間、 きものが好きで好きでというお客様がたくさんお越し下さってきものを語り、 語らい、尽きることのない談義に花が咲き、 幸福な出会いの場を提供できたという充実した思いで胸が熱くなりました。 小山さんにとってもきものの愛好家の皆さんのなまの声、 まことの願いをお聞きになられて励みにも力にもなったことでしょう。
 昨年八月みたび上田の工房を訪れましたが小山さんの口からは以前にも増してものづくりへの情熱がほとばしっていました。 資料館に残っている古い上田紬に魅せられてなんとか再現できないかと手引き真綿の糸を考案し試織された色無地の紬を見せて頂いたのですが、 紬糸にえも言えぬ表情があって味わい深い織物に出来上がっていました。 丸太やオリジナルとしてお願いしていた音楽をモチーフにしたきものや帯もいくつかデザインを画いて下さっていてどんな風に織上がるのかと期待がふくらみました。
 二月十九日(土)二十日(日)の二日間、 もう一度小山さんが神戸に来られ弊店で新作の数々を紹介して下さいます。 既に小山さんのきものをお召し下さったお客様もいらっしゃることですのでお話の輪がさらに広がりそうでとても楽しみです。



 『前回神戸の丸太やさんで個展をさせていただき作品を通して多くの方々と出会い御批評をいただき大変励みになりました。
 自然の中にはいろいろな色や空気や音があります。 糸を選び色やガラを付け着る方を演出するきものや帯をどう表現して作るか・・ 私のものづくりのテーマでもあります。
 二回目の個展です。 作品の中に少しでも何かを感じていただけたら幸いです。』

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