十一月十八日(土)より二十六日(日)まで

 飛行機は早い。まして神戸空港からだとさらに早い。10月25日、朝7時過ぎに家を出て9時過ぎには鹿児島空港に降り立っていました。三度目の鹿児島。しかし今回ほど鹿児島が身近に 感じられたことはありません。勿論、その理由のひとつは鹿児島空港で私と家内を出迎えてくださった関健二郎さんとの3年を越えるお付き合いがあるからでしょう。
 鹿児島に早く着きすぎた私たちを関健二郎さんはかつて韓国から渡来した陶工が居住し薩摩藩の特産として薩摩焼の名品を生み出した美山に案内してくださいました。まず美山の窯元として著名な沈寿官窯を尋ねて庭に築かれた巨大な登り窯を見た後、展示室で薩摩焼を代表する白薩摩、黒薩摩、などの器を見せていただきました。次に尋ねたのは永吉窯で関健二郎さんの大のお気に入りの様子です。奥様は神戸のご出身とかで妙に親しみを覚えました。関さんは奥様と気の置けない仲のようで冗談を言いながら何点か買い求めておられました。私もワインやお酒を呑むのに良さそうなカップを家族四人分買い求めました。陶器と思えないほど軽くてとても気に入っています。美山を出て鹿児島市内に入るとすでにお昼時分になり、先に昼食を、と一度食べてみたかった鹿児島ラーメンを市内で有名なお店で頂きました。意外にもさっぱりした味で後味がとても良かったです。
 昼食を済ませ、路面電車が通る広い道路を車で走って関絹織物に着きました。玄関を入ると天井からドンドンという音、機を打ち込む音が身体に響いてきます。中からお父さんの関順一郎が出迎えてくださいました。お父さんは部屋いっぱいに所狭しと並べられた糸を手に取りながら糸作りについて愛児を慈しむように語ってくださいました。美しくもたおやかな糸に触れていることが生きがいのように。二階に上がると熟練の織子さんが織機に向かってドンドンと機織の真っ最中です。その中のお二人は鹿児島の織物協同組合から最近、優秀な技術者として表彰されたそうです。お兄さんの祐一郎さんは織機の下ごしらえで筬に縦糸を通す作業に没頭されていました。まさに針穴に糸を通すような作業で、そういう気の遠くなるような根を詰めた作業を関さんのご家族でなさるので織子さんも心置きなく機織に打ち込めるのだそうです。
 別棟の一室で織りあがった残糸の大島紬を見せていただきました。ひとつひとつ広げてくださるたびに家内は歓声を上げて素敵素敵を連発しています。確かに残糸の大島紬が素敵なのは、そのひとつひとつがどれもオンリーワンだということです。唯一度の糸との出会い。二度と織りたくても同じ糸には出会えない。一糸一会の織物。そこに織り込まれるのは糸に出会えた喜び、その糸で創る悦び。一昨年、去年、と二度、関織物の個展を開催し、たくさんのお客様に残糸の大島紬をお求め頂きました。お求め頂いた残糸の大島紬をどれほどお客様が楽しんでお召しくださっていることでしょう。着心地の良さ、着姿の美しさ、帯や小物の色あわせ。これほどに着る愉しみにあふれた着物がほかにあるでしょうか。11月18日(土)、19日(日)、関健二郎さんが「創る悦び」をお伝えするために鹿児島からお越しくださいます。関健二郎さんにお客様の「着る愉しみ」をご覧いただければ関健二郎さんの「創る悦び」はさらに増すことでしょう。それはお客様にとっても「着る愉しみ」が増すことに違いありません。