十月一日(日)より九日(月)まで
 どうして「丸太やオリジナルコレクション コンサート」が始まったかご存知ですか。そもそもの始まりは14〜5年前、家内が「バイオリン柄の着物や帯が欲しい」と言い出したのがきっかけでした。当時、弊店は問屋から商品を仕入れて販売しておりましたので取引のあった問屋の新作展でバイオリン柄の着物や帯がないか探しました。しかし2〜3年探し続けたのですが全く!ありませんでした。私たちがバイオリン柄の着物や帯を探していることを知って、あるとき名和野要さんが「心斎橋の呉服屋さんがお客様から第九のコンサートを聞きに行く着物を、という注文を頂いて川島織物でト音記号の綴帯を創られましたよ」と教えていただきました。高価ではありますが綴織りなら1本から特注できます。「そうか、商品として作られていないのなら特注して創ればいいのだ」と気付きました。
 問題は誰に創ってもらうか、ということです。バイオリン、という西洋文化を代表する楽器を日本文化の代表である着物や帯にデザインする。下手をすると、とんでもないゲテモノができてしまう。丁度そのころ横山喜八郎さんという日本の染織界を代表する方とのご縁を頂きました。この方ならきっとバイオリンを着物や帯にデザインしてくださるのではないか、という予感が閃きました。初めてバイオリンの染帯ができあがったときの感動。ピアノだったら、音符だったら、と夢がふくらみました。夢はどんどん大きくなって「丸太やオリジナルコレクション コンサート」が生まれたのです。
 あのころ西洋音楽をモチーフにした着物や帯は全く!といっていいほどありませんでした。だから私たちは創ったのです。その着物や帯がとても新鮮だったから着物関係の雑誌や新聞に何度も紹介されました。すると「二匹目のどじょう」を狙っていつの間にかピアノやバイオリン、音符の着物や帯があっちこっちで次から次へと作られるようになったのです。「丸太やさん、この着物どうですか」と、そういう商品を弊店に持ち込まれる問屋がたくさんありました。ほとんどは志の無い安直なものでしたが中には成る程というものもありました。しかし弊店はオリジナルにこだわって、なぜかというと「着物が好き、音楽が好き」という私たちの思いを大切にしたいからオリジナルにこだわって、そういう商品には一切目もくれませんでした。
 今年の1月に川島織物の担当者が「弊社の本年度の企画はモーツァルト生誕250年で制作いたしましたので是非丸太やさんにご覧頂いてご感想を頂きたい」との案内を受けました。2月に開催された「川島コレクション モーツァルトとその時代」は「さすが川島織物」という出来映えでした。モーツァルトの音楽と、その音楽を生み出したロココ時代の宮廷文化が川島織物ならではのデザイン力と技術力で名古屋帯、袋帯、綴帯に昇華されているのです。それはとても弊店で真似の出来ない着物文化の頂点を究めるものでした。是非、弊店のお客様にもご覧頂きたい。おそらくそれは弊店が「丸太やオリジナルコレクション コンサート」以外で音楽をモチーフにした帯をご覧頂く最初にして最後のことでしょう。