桜満開、いつもながら桜の開花にこそ春の訪れを実感します。まるで奇跡のように、気がつくとある日突然、桜満開。しかし、震災の後の桜満開ほど心動かされたことはありません。眼に入る光景はすべて信じがたいような惨状、灰燼に帰し廃墟と化した街に晴れやかに咲き誇る桜。震災の後のあの真っ暗闇のなかに灯した蝋燭のか細い炎に生きる力を得たように灰色の街にまぶしいほどの明るさで花開いた桜に神戸の街もきっとまた美しく甦るだろう、と確信しました。
 長田(おさだ)けい子さんに初めて出会ったのは震災の1年ほど前のことでした。当時取引のあった問屋さんの新作展の会場で目に止まったウールのスカーフが気に入って仕入れたら丁度会場に入ってこられた女性を「このスカーフの制作者です」とご紹介いただいたのです。そのスカーフの色と柄の得も言えぬ柔らかさになんと似つかわしい方だろう。この人にしてこの作品あり、ふたつながら惚れ込みました。すぐに弊店で個展の開催をお願いし「パステル色に花ひらいて―長田けい子染個展」を開いて頂きました。
 その頃、弊店は音楽をモティーフにした「丸太やオリジナルコレクションコンサート」を発表し、2度目の発表を12月に予定していました。最初の発表会でお客様から「着物も帯も素敵だけれどこの雰囲気でスカーフとかブラウスがあれば」というご要望をいただきましたので長田けい子さんに制作を依頼しました。出来あがったスカーフもブラウスも期待どおり、いえ期待以上の出来映えでお客様にとても喜んでいただきました。
 しかし、その直後に起きた大震災、壊滅的な打撃を受けた神戸の惨状に「丸太やオリジナルコレクションコンサート」の雅な世界は余りにかけ離れていました。3月、神戸商工会議所が販売の機会を失った神戸の商業者に東京での販売会を企画してくださいました。「丸太やオリジナルコレクションコンサート」を東京で発表しよう、と決断し、そのための作品を長田けい子さんにも依頼しました。東京の会場に向かう途中、京都駅で下車し、地下街の喫茶店で長田けい子さんと落ち合って「丸太やオリジナルコレクションコンサート」として新たに制作していただいたテーブルセンター、タペストリーなどを受け取りました。そのとき「がんばってください」と声をかけてくださった長田けい子さんの笑顔とその作品にどれほど励まされたことでしょう。東京の会場で「丸太やオリジナルコレクションコンサート」は好評で長田けい子さんの作品はすべてお買い求めいただきました。
 あれから幾たびか春を迎え桜満開を心置きなく楽しむことが出来るのは長田けい子さん、あなたのお蔭なのです。

―― 出品作品 ――

きもの・帯・ゆかた・ブラウス・スカーフ・ショール・パラソル・バッグ
のれん・タペストリー・テーブルクロス・テーブルセンター・コースター・ほか