一年の間に何度か染織家や工芸家の方々に弊店で個展を開催していただきますが開催するにあたって私なりにまず気を配るのが表題です。 どのように名付けて個展を開催していただくのか。作家の皆さんが「ものづくり」にこめる「思い」を私がどう理解し共感し、その「思い」をいかにお客様に過たずお伝えできるか、そのとっかかりの大切なところが表題を名付けるという行為にかかっていると考えるからです。 十一月に白河英治さんの個展を開催していただくことになり考え続けたのはやはり表題でした。「入魂」という言葉が残りました。この度の個展開催にあたって何度か白河英治さんとお話をいたしましたが白河さんの「ものづくり」の要は「技」ではなく「魂」だ、とあらためて強く感じたからです。
 十一月二日、「おおかた作品が出来ました」と白河英治さんからご連絡をいただき京都市右京区太秦の工房をお訪ねしました。 「最近、作品の依頼が多くてなかなか思うように進みませんでしたが、やっと目途が立ちました。」といつもの精悍な表情。 日展への出展作品をはじめ展覧会への出品依頼とか色々重なっておられるご様子です。十一月十九日(土)から二十四日(木)まで弊店で開催される個展に出品してくださる作品を拝見させて頂きました。 挽粉染(ひっこぞめ)やろうけつ染など様々な染色技法を駆使した作品はいつもながら「技」の確かさ、高さが光りますが、しかしこれまでの作品と何かが違う。「技」が奥に秘められている。「技」が奥に引いて前に出てきたのはこの作品を身に纏うであろう「人」だ。 着て頂くことを何よりも大切に考えて作られた着物。着て頂くことで着る「人」が誰よりも映える着物。「仏」を作って「魂」を入れることを怠ってはならないように着物を作って着る「人」を忘れてはならない。 作品に「魂」を入れることに白河英治さんは全精力を傾けられたのではないか。
 見終わって「良いですね」と一言申しあげると白河さんは「そうですか」と安堵の表情を浮かべられました。「本当に良いですよ」と重ねて申しあげました。「お客様がどんな風に見てくださるか楽しみです」。新しい境地とは申しません。しかし何かが違う。その違いを是非見ていただきたい。 そういう思いを強く抱きました。律儀な白河さんはいつもながら会期中ずっと会場にお越しくださいます。ご来駕ご高覧の程心よりお願い申しあげます。