毎夏、八月の初めに信州に出かけます。震災の翌年、長野県松本市に「みさやま紬」の横山俊一郎さんをお訪ねしたのが始まりで、次の年、友人の音楽家夫妻が主催する「清里マンドリン音楽祭」に弊店のオリジナル商品の販売を兼ねて参加、その後、上田市に小山憲市さんを初めて訪ねました。それから毎年「清里マンドリン音楽祭」に参加し小山憲市さんを訪問するために信州に出かけています。
 今年も八月九日、朝九時過ぎに神戸を出発、一路、松本に向かいました。途中、恵那峡のサービスエリアで昼食をとって松本市内の美ヶ原温泉「和泉屋善兵衛」に着いたのは三時過ぎ、一服後、露天風呂に入り一息つきました。「和泉屋善兵衛」は最初に松本を訪れたとき横山俊一郎さんにご紹介いただいて宿泊した旅館で家族全員気に入っていましたので今回も逗留することにしたのです。過去に二度利用しただけなのにいつも丁寧なご案内をいただき機会があればいつかまたと思っていました。夕食はこれ見よがしの贅を尽くしたというのではなく一品一品に心がこもっていて豊な気持ちなりました。食後、露天の足湯につかりボーッとしているのは旅の宿ならではのくつろぎのひと時です。翌朝の食事がまた満ち足りた気分になり食後は談話室でゆっくりコーヒーを飲みました。その宿泊料金が二食付きで一万三千円(税別)、食事代だけでもそれぐらいの内容です。美ヶ原温泉自体、盛時の面影が少しずつ失せてきているのでしょう。来るたびに旅館の数が減っているように見受けられます。しかしその中で「和泉屋善兵衛」をはじめ生き残っている旅館はお客様に十二分な満足をあたえられるよう大変な企業努力を重ねておられるのでしょう。我が身に振り返ってここまで努力しているか考えさせられました。
 二日目は松本から清里へ。丁度、昼頃に「清里マンドリン音楽祭」会場の清泉寮に到着、すぐに商品の展示、二時からゲストミュージシャンのコンサートが開かれ、その前後に販売するのです。全国各地から集まった熱心なマンドリン愛好家と一般客を前に高原の音楽祭ならではのさわやかな演奏が繰り広げられます。この音楽祭を通じでどれほど広くたくさんの方とのご縁をいただいたことでしょう。機会を与えてくださる友人に感謝。
 翌日十二時、清里から上田へ。上田の小山憲市さんのお宅に着いたのは一時半ごろ。出迎えてくださった小山さんの車に乗り換え早速市内のお蕎麦屋さんへ。上田市内では一、二を争う人気のお蕎麦屋さんだそうで、いつも一杯だそうですが時間が昼時を過ぎているせいかすぐ座れました。並を注文しても二人前はあるかという盛で腰のある本場ならではのざる蕎麦です。満腹になってお宅に戻りました。いつもながら奥様の心配りの細やかなおもてなしを頂きながら話が弾みます。応接間の衣桁に掛けられたきものは「夕暮れの風景です。残照に電信柱とか樹木がシルエットになっている、そんなイメージで創りました」。小山憲市さんのきものには詩がある、詩的なイメージ。家内や娘が「私、欲しい」と思わず言ってしまうような素敵な着尺地もたくさんあります。「今回、八寸の帯を創りました」と広げられた帯地は今までにない少しざっくりとした地合いでいかにも締めやすそうです。何気ない縞や格子に得も言えぬ表情がある。「優しくて、男らしくて、小山さんは僕の憧れ」と息子、「奥様の笑顔がとてもあたたかくて大好き」と娘。家族全員、小山さんの大ファンです。来年の三月四日から十二日まで小山憲市さんの個展を開催していただく予定を立てていただきました。ヨシ、がんばるぞ。元気を一杯頂いて神戸に帰ってきました。