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 京都室町の紬問屋「加納」の加納荘五郎社長は呉服業界の過去・現在・未来を的確に見据えて為すべきこと為すべきではないことをしっかり見極めておられるのですが私のような小売屋を全国から十店舗ほど集めて「紬愛会(ちゅうあいかい)」という勉強会を年に数回開いて下さっています。昨年九月一日の会合の席上、加納社長は「ご多分に漏れず私もこの夏はアテネ五輪で寝不足気味でしたが試合後の選手のインタビューがそれぞれに含蓄がありました。なかでも卓球の福原愛さんの『オリンピックはまぐれが無いということがよく分かりました』という言葉がとても印象的でした。やったことの結果しか出ない、という意味で、〈ものづくり〉もまったく同じです。」と話されました。呉服業界で〈ものづくり〉を何より大切にされておられる加納社長ならではの感想だと感銘を受けました。
 同じ九月一日に四条烏丸の京都産業会館で「大島紬産地求評会」が開催されました。会場には鹿児島と奄美の両産地の大島紬の新作が展示され業界関係者からの評価を受けていました。作品には番号が付けられていますが織元の名前は伏せられています。しかし昨年、弊店で個展を開催した関織物の作品は一目でそれと分かりました。一味も二味も違っているからです。会場には関順一郎さん、健二郎さん親子もお越しになっておられて再会いたしました。関さんは全国の呉服屋さんに人気のようで次々にご挨拶を受けておられました。今、着物を愛するお客様に一番求められている着物なのでしょう。
 一昨年の七月の終わり、「紬愛会」の研修旅行で鹿児島を訪れ四軒の織元を見学しました。それぞれに個性があり主張がありどれもが素敵で産地の元気を実感できたのですが、なかでも関織物は残糸(使われないで残った糸)で織る、という発想のユニークさで鮮烈な印象を受けました。弊店のお客様に是非ご覧頂きたいとご相談申しあげて昨年の二月に「糸の命―残糸の大島紬」を開催いたしました。その一ヶ月前、家内も一緒に鹿児島を訪れ関織物を見学しましたが関順一郎さん、健二郎さん親子の〈ものづくり〉にかけるひたむきさに心打たれました。まさに〈糸づくり〉から始めて〈織づくり〉に至る気の遠くなるような時間と労力、それを支える〈ものづくり〉への熱いおもいとこだわり。
 会期中、たくさんのお客様に目を留めていただき残糸の大島紬をお求めいただいたのですが仕立て上げてあらためて「私共が使用している絹糸は6Aの最高品質の絹糸です。」とおっしゃられた関健二郎さんの言葉が深く理解できました。まさに最高の風合い、この大島紬をお召しになる方の着心地が最高であることを確信しました。是非その着姿もお見せしたくて今回、遠く鹿児島から関健二郎さんにお越しいただいくことになりました。関健二郎さんの〈糸づくり〉〈織づくり〉にかける思いをお聞き届けいただけたら、と考えてのことです。関健二郎さんもたくさんのお客様とのお出会いを楽しみにしておられます。