白河英治さんとお知り合いになったのは三年前の丁度今時分、偶々店の前を通られて陳列してあったバイオリンの帯を目に留められたのがきっかけでした。それから時々店に来てくださるようになり九月に京都でなさった個展にお誘いいただいて初めて白河さんの作品を見せていただきました。その次の年の五月に最初の個展を弊店で開いていただき、秋には京都市立美術館で開催された日展で出品作品を見せていただく機会がありました。昨年五月に二回目の個展を開いていただき今年三回目の個展を開いていただくことになりました。
 そんな風に染色家のかたとお付き合いさせていただくことは商売冥利につきるのですが、なぜなら「文は人なり」という言葉のとおり染色家の作品は染色家の人柄そのものであるからです。白河さんの作品は白河さんの律儀で几帳面で誠実でしかし大胆で自信に満ちた人柄そのものなのです。さらにあくなき探究心、向上心。一歩でも半歩でも今より前に進みたいという強い意欲。新しく染められた作品を見せていただくごとに新たな美への挑戦の意欲が伝わってくるのです。
 四月の中頃、「出品作品の七割ほどが出来ました」というご連絡をいただき京都太秦の工房をお尋ねしました。帯、着物、訪問着、とひとつひとつ広げて見せていただいたのですが生地の選択、色合い、染め技法、とそれぞれに思いが込められていて圧倒されます。これまで何度も作品を見せていただいてきたのに今までのどれとも違うあらたな染めの世界が展開されていることに何より驚かされるのです。
 神戸という街がとても好きだ、といつもおっしゃってくださる白河さんは最初の個展の時も二度目も神戸の風景を訪問着に染めてくださいました。最初は神戸の街中から見上げた六甲の山並み、二度目は六甲山の山頂から眺望した神戸の夜景。今回は私の住む須磨に程近い鉢伏山から見下ろした街と海。かつて東京に住んでいたころ「故郷は遠きにありて思うもの故郷の山はなつかしきかな」という啄木の歌に心打たれ自分にとって故郷とは須磨の海だったことを思い起こしました。
 去年、一昨年の個展でたくさんのお客様に白河さんの着物や帯をお求めいただきました。そしてたくさんのお客様がその着物や帯をお召しくださいました。その着姿を見せていただく度、お召しくださる女性の美しさを引き出したいのです、という白河さんの言葉を思い返します。着物は着る物、飾る物でも仕舞い込む物でもありません。そのことを何より大切にされる白河さんの願いは誰よりもお客様がかなえてくださっています。会期中、連日白河さんご本人が会場にお越しくださいます。皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。