あれから一年が経ちました。一昨年の六月、増田文明さんが数本の袋帯を持参されたのがそもそものきっかけでした。白数亮さんという帯の製造元が問屋との取引が激減して一旦は廃業されたのがやはりどうしても帯を作り続けたくて一年後に製造を再開されたけれど販路がなくて困っておられる、弊店で販売を検討できないか、というお話しを持ち込まれたのです。その袋帯はどれもさりげなくさわやかでした。「良い帯ですね。ご本人ともお会いしたいですね。」それからほどなく帯の制作者である白数亮さんと岩永明さんが増田さんの紹介でお越しくださいました。和紙を素材に用いることに取り組んでいること、「道長」という古典文様に魅せられ帯の製造を再開するにあたって「織匠道長」と名付けたことなどを聞かせてくださいました。その実直な語り口、織り手としての自負、何より新たに織り上がった帯の清新さに心を動かされいつか是非弊店で発表する機会をおつくりすることを約束しました。そして昨年一月「織匠道長 棄てがたきもの」という発表会を開催いたしました。
 発表会には弊店のお客様にあらかじめ声をおかけして着物姿でご来場いただくようお願いしました。白数さん岩永さんにお客様がどのように着物と帯を組み合わせてお洒落を楽しまれておられるかをご自身の眼で確かめていただきたかったのです。得てして帯屋さんは帯だけを見てものづくりをされておられる、そのことがひとりよがりで使いにくい帯が巷に多い原因ではないか、と考えていたからです。会期中たくさんのお客様が呼びかけに応えてくださって着物姿でご来場くださいました。それぞれが気取らず何気なくキモノファッションを楽しまれておられるのをご覧になってきっと何かを感じてとってくださっただろうと思いました。会場では「織匠道長」の袋帯をたくさんのお客様がお求めくださったのですが「こんなふうにお買い求めくださって自信がつきました」と白数さんはとても喜んでおられました。発表会の直前、お客様にどう評価をいただけるか不安で血圧が高くなられたほどでしたから喜びもひとしおだったことでしょう。
 その後「織匠道長」さんが新たな帯作りに取り組まれておられることは増田さんから伝え聞いていました。しかし昨今のことのほか厳しい商況のなか織り続けることがどれほど困難なことか想像するに余りあるものがあります。十一月の初め「新作が出来上がってますので見てあげてください」と増田さんからご連絡いただき京都で白数さんと再会しました。とてもお元気そうで見せていただいた新作の袋帯はどれも感動的な出来映えでした。さりげなさがさらに洗練され広がりと豊かさがあります。「お店で会を開いていただいて本当に勉強になりましたし励みになりました。あれから一年、私なりにどうしたらもっと良いものが出来るか色々やってきました。どうでしょうか」と真顔でおたずになるので「本当に良いものが出来ましたね。本当に良いですよ」とだけお答えしました。是非お客様に新作の袋帯を見ていただき「織匠道長」さんのこの一年のご努力を見届けていただきたいと心に決めました。