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上田への道は四度目、長野自動車道を北へ上り更埴(こうしょく)
インターから関越自動車道に入って南へ、
菅平インターを出ると小山さんの工房へは数分で着きます。
先に昼食を済ませてと蕎麦屋に立ち寄る。「増田屋」というその店は一昨年、小山さんが「子どもの友達のお家がされているんです」
と連れてきて下さったお店で、
とても美味しかったので今度も是非立ち寄るつもりだったのです。
蕎麦はすごく細口でかなり白っぽい麺なので見た目はそうめんに近いのですがシャキっとくる歯ごたえはさすが本場の信州蕎麦、
真夏の暑さもいっとき忘れます。
訪問するといつもながら小山さんと奥様が温かく出迎えてくださいました。
以前お送りした娘の絵を玄関や応接間に飾って下さっていてそのお礼をとお嬢様まで挨拶してくださいました。 応接間に通して頂いて目に入ったのが衣桁に掛けられた紬の訪問着、 見た瞬間、小山さんの創作意欲の横溢に目を見張りました。 どんどん前進されている、その推進力。 「染織作家の方といろいろお付き合いするようになったのですが、 皆さんとても深く考えて創作に取り組まれておられます、哲学的というか。 自分の場合は何なんだろう。 染織新人展に初めて出品する作品を制作したとき、もうこれで最後だ、 悔いを残さないように自分が本当に織りたかったものを作ろう、 と上田の自然を題材に選びました。四季折々の風景が好きですし、 慰められたり励まされたりしますから。最近、 身内に不幸があったのですが自分に何もできないのがもどかしくて、 心の中で祈ることしかできない。 そんな気持ちをこの着物には織り込みました。」 いつも心打たれるのは小山さんの真摯さ、 気負いともハッタリとも無縁な誠実さ。 コトバでは誤魔化しようの無い手仕事に向き合う人の言葉。 「織物研究家の方に紹介して頂いて古い上田紬の資料を見せていただいたことがありました。本当に素晴らしい織物で先人がこんなスゴイものを作っていたというのは驚きだったし感動しました。 なんとかその風合いを再現できないかとずっと試してきたんですが、 手引きの座繰り糸を作られる所に協力していただいてやっとこういう紬が織れました。」 と少しざっくりした無地の紬を見せてくださいました。 「前を見ることも大切ですけれど、後ろを振り返る、というのも大事です。」着物が着る物として着る人を和ませ華やかせた時代、 作り手が着られることを前提に着心地や着晴れに心を砕いた時代、 そんな時代だけが生み出せた逸品の織物、 その織物を今という時代に最現しようという小山さんの気合。 着物はあくまで着て頂く物、 という信念で製作される小山さんだからこそ可能になったのでしょう。 「上田で初めて個展を開いたとき、 たくさんのお客様が見て下さって本当に勉強になりました。 この着物だったらこういう帯とこういう帯締めと帯上げで、とおっしゃって。着物のお好きな方はそんな風にコーディネートを楽しまれるんだと分かりました。 ですから丸太やさんでまたいろいろなお客様とお会いできるのがとても楽しみです。」 十月十三日(土)十四日(日) 小山さんが遠路はるばる丸太やに来て下さいます。 ひとりでも多くのお客様とのお出会いがあれば喜びはそれに尽きることはありません。 |