きもの・帯 上田紬 小山憲市
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  『暈し(ぼかし)』

 「春はあけぼの」と清少納言は枕草子を書き始め「ようよう白くなりゆく山際少し明かりて 紫だちたる雲の細くたなびきたる」と書き進めます。京の都は盆地、朝の光は山の稜線を照らしながら射し始めるのでしょう。まだ山裾は夜の帳を残して暗く沈んでいる。山裾から山際へと少しずつ明るくなって、その上に朝日に照らされた紫雲がたなびいている。清少納言の類まれな感性が見事に捕らえ得た春の曙。それは日本人の美意識の原型でもあります。少しずつ濃くなり、また薄くなる色の変わりゆく様、その微妙な変化に日本人は移ろいゆくことの美しさを感じるのでしょう。それは暈し染、暈し織、としてきもの世界にも表現されてきました。染や織で微妙に色の濃淡、色合いを変えていく。それは極めて日本的な表現なのです。しかし一見単純そうな暈しの染、織、は技術的には大変高度で、その技術を持つ方が少ないのが現状です。

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