春の花が次々に咲き、春爛漫といった様子です。そよぐ風もあたたかで、心地よいですね。自然はいつも心に安らぎと潤いをもたらしてくれます。日々の喧騒の中でも、繊細な自然の美しさを感じる心のゆとりを忘れないでいたいですね。
 この度弊店では、信州上田の染織家・小山憲市さんの上田紬展を開催いたします。小山憲市さんに弊店で初めて個展を開催頂いてから今年で二十二年。ずっと変わらぬご縁を繋いでいただきました。今回は小山憲市さんの、これまでと変わらない魅力とともに、新しい挑戦も感じていただきたいと思います。
 長野県の上田市は古くから養蚕が盛んで、織物もたくさん作られていました。上田地域で織られていた【上田紬】は、江戸時代には結城紬や大島紬と並び称される織物として人気を博していたそうです。上田紬は伝統的に工房ごとに独自の製法が受け継がれていて、同じ上田紬でも工房によって個性豊かな織物が作られています。信州の自然に囲まれ、自由で開放的な風土が育まれてきたのでしょう。そんな風土を現代に受け継いでいるのが小山憲市さんだと思います。上田紬の伝統を受け継ぎつつ、常に新しいものづくりに挑戦し続ける小山憲市さんの精神が、今回の作品にも表れているように思います。
 小山憲市さんのものづくりは、糸を染めて織る、とてもシンプルなものです。ですが、このシンプルな織物の中でできることは無限大。どんな質感の糸を使い、どんな色に染め、どのように織るか、少しの匙加減が、大きな違いとなって布に表れます。小山憲市さんの上田紬はとてもシンプルであるがゆえに、限りなく奥が深いのです。
 小山憲市さんが一つ一つの着物に込めたものづくりの思いをぜひ感じてください。ご来店を心よりお待ちいたしております。


 ベートーヴェン生誕250年を記念して小山憲市さんに制作頂いた新作の着物です。
夜の闇を表す漆黒の地色に、月明かりの青と鍵盤の模様を織で表現しています。

 モノトーンの縞と格子で陰影を表現した紬の絵羽着物です。光と影が交錯し、奥深い世界が生まれています。合わせる帯によっても見え方が変わるので、着こなし方も様々に楽しむことができます。

 ベートーヴェン生誕250年を記念して小山憲市さんに制作していただいた名古屋帯です。ベートーヴェンの交響曲第9番の『歓喜の歌』の旋律を抽象的な図形として表現しています。