ツツジや藤が今年も美しい花をたくさん咲かせているようです。着物でお出かけするには一番良い気候ではないでしょうか。元町商店街にも、着物でお越しの方をたくさんお見掛けいたします。着物をお召くださる方が年々多くなっているようで、嬉しくなりますね。
 着物を着る機会が多くなると、着物の着心地、帯の結び心地の違いも少しずつ感じるようになります。良い着物、良い帯は、着姿が美しく、そして着心地も良いものです。素材選びや織の技術など、小さなこだわりの積み重ねが、着た時の感動の大きな違いになります。
 この度弊店では【服部綴工房】服部秀司さんの作品展を開催いたします。服部秀司さんが携わっているのは〈爪掻本綴帯〉という帯です。織物の帯の中でも最高峰といわれる帯なのですが、どのような帯なのか、

 〈爪掻本綴帯〉は手織りで織られている帯地です。他の帯と違うのは、帯芯を必要とせず、帯の生地のみで結ぶことができること。爪掻本綴帯は、帯芯による補強がいらないほど、帯地そのものにしっかりとしたコシがあるのが特徴です。この風合いは、独特な織り方に秘密があります。爪掻本綴帯は、経糸を非常に強い張力で張ります。そこに、柔らかい緯糸をたっぷりと織り込むのです。普通の織物は経糸と横糸の交差が見えますが、綴帯は緯糸で経糸が完全にくるまれて見えなくなります。この、強い経糸に柔らかい経糸をたっぷり織るという独自の織り方が、しっかりしたコシとしなやかさを兼ね備えた綴ならではの風合いになるのです。
 柄の表現の仕方にも特徴があります。爪掻本綴帯は緯糸のみで柄を表現します。柄の部分は、その部分だけ緯糸を織り込んでいくのです。櫛などで緯糸を織り込むのですが、細かな部分は手の爪を使って緯糸を掻き寄せていきます。この織り方から〈爪掻本綴〉と呼ばれるのです。模様を表現する織り方としてはとても歴史が古く、原始的であるが故に手間のかかる織り方ですが、とても自由な模様表現ができる技法でもあります。
 数ある帯の中でも最高峰とされる綴帯ですが、実は苦しい時代も経験しています。織の技術を誇示するような重い色柄の帯が多く作られすぎたこと、さらに海外製の粗悪品が出回ってしまったために、綴帯が本来持っていたお洒落さと使い心地の良さが伝えられなくなってしまったのです。服部秀司さんが家業を継がれたときがまさにこのような状況でした。そこで服部秀司さんは、綴帯の本来の魅力を取り戻すべく、原点に戻って制作を始められました。それは「着物をお召しになる方が心地よく結べる帯」を作るということです。デザインでは、カジュアルからフォーマルまで様々なシーンに結ぶことができる綴帯ならではの特徴を活かし、着物とのコーディネートがしやすい上品で洗練されたデザインを考えられています。結び心地を左右する織りでは、職人の手織りにこだわり、時間はかかっても一点ずつ丁寧に織ることで、何度でも結びたくなる風合いに。これらのことは、工房に籠っていてはできません。着物をお召しになる方が何を感じ、どんな帯を求めておられるか、服部秀司さんは全国を巡り、直にお客様の声を聞くことで独自の帯づくりに励んでこられたのです。
 全国の伝統産業は、次世代の担い手減少が危ぶまれています。爪掻本綴も例外ではありません。しかし希望の光は絶えていません。この度の個展では、服部秀司さんのご子息、服部紘樹さんも弊店にお越しくださいます。紘樹さんは父秀司さんの跡を継ぐため、現在は帯づくりの様々な工程に従事しつつ、店頭で直にお客様と対面することで、着物をお召しになる方の声を聞き知見を広めておられるそうです。
 伝統の中に吹く新しい風が、服部綴工房の新作の帯にも新たな魅力となって表れているようです。初めて爪掻本綴帯をご覧になられる方にも、ただ今服部綴工房の帯をご愛用いただいている方にも、きっとお目に留めていただける一品にお出会いいただけるでしょう。
 個展期間中、服部秀司さんが十五・十六日・十八〜二十一日に弊店へお越しくださいます。服部紘樹さんも十三・十四・二十・二十一日に弊店へお越しくださる予定です。
 ご来店を心よりお待ちいたしております。

昭和33年生まれ
後服部綴工房を主宰し、爪掻綴織物制作に携わる。オリジナル綴帯を個展で発表する他、お客様のご注文により1点ずつ帯を制作する別誂えも得意とする。
昭和60年生まれ
印刷会社勤務を経て平成27年より服部綴工房に従事。綴帯の図案制作や製織などを学びつつ、店頭での販売にも立ち知見を広めている。

付下げ・訪問着に結んで余所行きに
小紋に結んで楽しい街着に


小紋に結んで楽しい街着に