神戸港は今年開港一五〇年を迎えました。開港以来、日本と世界の窓口として、人やモノや文化の往来を支えてきました。神戸という街の気風は港によって育まれたといってもよいでしょう。世界とのふれあいの中で、日本の中でも独自の文化が培われてきたところです。
 日本の文化は、世界との繋がりを抜きに語ることはできません。四方を海に囲まれた日本には、海運によって古くから世界と繋がっていました。たとえば衣服を見ても、日本の伝統的な民族衣装である和服の中にも、世界から日本に伝わった技法や文様にあふれています。
 この度弊店では、民族衣装研究家・名和野要さんが世界各地を巡り収集した多彩な民族衣装の展覧会【名和野要 民族衣装コレクション 海のシルクロード展】を開催いたします。「海のシルクロード」といわれる海洋ルートによって発展した世界中の民族衣装をもとに、海の道が育んだ多彩な服飾文化をご覧いただけます。海運技術の向上は人やモノの往来を活発にし、遠く離れた国を結ぶことができるようになりました。海が運んだ世界の文化と歴史、そして海によってはるか昔から結ばれてきた日本と世界の繋がりをぜひ感じてください。


ギリシャ・アテネのワンピース
黒地にターコイズブルーの幾何学文様が鮮やか。
海のシルクロードはヨーロッパやアフリカへも到達した。

インド・ラジャスタン州の民族衣装
インドは染織技法や文様の源流となった国。
インドで生まれた技法や文様が、海の道によって世界中に伝搬した。


メキシコ・ユカタン半島のワンピース
マヤ族の民族衣装ウイプル。
大航海時代になると、中南米南米やカリブ海とも人や文化の往来が始まった。

パナマ・サンブラス島の民族衣装
クナ族の民族衣装。多彩な色を使ったキルトアップリケが美しい。
上下に分かれていて、下は巻きスカートをする。



 太古の昔より、海は人と文化を運ぶ道でした。日本に根付いた様々な文化や技法も、その元をたどれば海の向こう側より伝わったものが多くあります。海無くしてこの国の文化や伝統はあり得ないのです。この度弊店では、海を渡って日本に伝わった染織技法のうち【絣】に注目し、その技法の伝搬と発展をたどります。
 【絣(かすり)】とは、糸を部分的に染め分けることで、織りながら文様を表現する技法です。現在、日本各地に様々な絣の技法があり、独自の発展を遂げています。今や着物を語る上で外すことのできない重要な技法となっている絣ですが、その起源はインドにあるといわれています。インドで生まれた絣は、東南アジアの島々を経て、琉球、九州、本州へと、海伝いに広まりました。それまで無地や縞、格子しかなかった日本の織物は、絣の技法が伝えられたことで文様表現力が格段に上がりました。初期には素朴で単純な模様だった絣は、伝わった土地それぞれにおいて様々な文様表現が発展し、日本独自の様々な織物が生み出されるようになりました。世界と日本を繋ぐ海の道があったからこそ、遠い異国で生まれた技法が日本に伝わり、日本の文化を豊かにする原動力となったのです。
 この度の展覧会では、沖縄の芭蕉布や、奄美大島の大島紬、九州の薩摩絣、久留米絣、新潟の越後上布など、海伝いに絣の技法が伝えられたといわれる日本各地の絣織物を、代表的な作品と併せてご覧いただけます。貴重な重要無形文化財に触れ、織物の魅力、絣の魅力をぜひご覧ください。


― 広瀬絣 ―
沖縄、九州と伝わった絣の技法はさらに山陰地方へと海伝いに伝搬する。広瀬絣もそのひとつで、現在の島根県で織られている。

― 大島紬 ―
奄美大島・鹿児島で織られている織物。締め機という独自の技法により、非常に精緻な絣模様を表現することができる。

― 芭蕉布 ―
糸芭蕉という植物の繊維で織られる沖縄の伝統的な織鋳物。500年もの歴史があるとされ、家々で自家用に織られていたもの。

― 越後上布 ―
現在の新潟県で作られている麻織物。山陰地方からさらに海を渡り絣の技法が伝えられ、様々な文様表現がある夏の最高級織物。

― 薩摩木綿 ―
九州は絣の綿織物づくりが盛んで、薩摩木綿もそのひとつ。大島紬の絣に使われる締め機を用い、綿織物の中では特に精緻な絣模様が特色。

― 琉球絣 ―
主に沖縄で織られている綿織物。日本に最初に絣の技法が伝わったのは沖縄といわれている。幾何学模様や自然の風物を絣で表現している。

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