風が少し冷たくなってきました。街路樹の葉も色付き始め、秋の深まりを感じます。今年も残り二カ月ほど。月日が流れるのは早いですね。心地よい秋の風に触れると、ほっこりとした紬の着物に袖を通したくなります。ふっくらと柔らかい紬のぬくもりに包まれると、心もほっこり温まるような気がします。 この度弊店では、信州上田の染織家・小山憲市さんの上田紬展を開催いたします。大河ドラマ『真田丸』でも脚光を浴びている長野県は上田市。ここは昔から養蚕が盛んで、織物の一大産地でもあります。上田紬は江戸時代に人気を博し、大島紬、結城紬と並んで日本の三大紬のひとつにも数えられました。他産地の紬と異なるのは、上田紬には細かな規格が無く、それぞれの機屋が切磋琢磨し、独自の作風を築いているところにあります。色彩も質感も多様性に富み、新しい感覚のものを次々と生み出すところが、高いファッションセンスを求める庶民に受け入れられたのでしょう。 より美しいもの、より心に響くものを求めて発展した上田紬。その気質は、現代の上田紬を代表する小山憲市さんにもしっかりと受け継がれています。今年もまた新しいチャレンジをしているという小山さんの今を拝見するべく、工房を構える上田へ先日お伺いしました。四方を山に囲まれた盆地である上田はすでに神戸より少し肌寒く感じるほど。真田丸人気で賑わう上田駅に降りると、小山憲市さんが迎えてくださいました。 小山憲市さんは、自宅を兼ねる工房で糸の精錬から染色、織まで、ほぼ全ての工程を一貫して制作されています。小山さんほど多くの工程をこなす工房はほとんどありません。「どれか一つ欠けても良いものが作れないので、できることは全て自分の手でやりたい」という小山さんのこだわりが、一つ一つの工程に表れています。 出来上がったばかりの新作も拝見させていただきました。一見シンプルに見える縞は、よく見ると変化に富み、見れば見るほど奥行の深さに吸い込まれていきます。「都会的で洗練された新しい縞の着物を作りたかった」という言葉通りの、モダンな風合いです。 仮仕立てしてある着物は、伝統的な着物の構図である「熨斗目」を再構成したもの。よく見ると様々な色や質感の糸が複雑に重なり合っています。「動かすと雰囲気が変わるでしょう。織物は一本一本の糸に意味があって、大事な役割を担っているんです。今見えていない糸も、角度を変えると表情を表す。身にまとう着物ならではの表現です」という、小山さんの考え抜かれた糸使いです。 「着物は雄弁すぎると着づらくなってしまうけど、着る人に語りかけるものも必要。僕の着物は、初めて着物を着る人でも気軽に着ることができて、それでいて着れば着るほど味わいの深さを感じてもらえる、そんな着物を目指しています。だから、ぜひ僕の着物を穴があくほど見てほしいし、触ってほしい」と、熱く話してくださった小山さん。より一層深みを増し、瑞々しい感性が溢れる今年の新作をぜひお手に取ってご覧ください。 |