五月も半ばを過ぎ、心地よい初夏の陽気になりました。日によっては汗ばむような時も。山々の緑も少しずつ色濃くなっているように思えます。今年の夏も少しずつ迫ってきているのを感じますね。
 先日、新潟県の小千谷市へ小千谷縮作家・樋口隆司さんの工房を訪ねました。神戸から小千谷までは電車でおよそ六時間。東京経由で上越新幹線に乗り換え、小千谷方面へ。車窓はビルの街並みから緑豊かな田園風景へ変わっていき、田んぼには植えられたばかりの稲の葉が風に揺られていました。雪国のイメージがある小千谷ですが、夏には照葉樹の青葉が山を覆います。緑の山間には雄大な信濃川が流れ、田畑を隅々まで潤しています。豊かな風土が小千谷縮の源なのです。
 樋口隆司さんの着物に表現されるモチーフも、小千谷の自然です。風や、雪や、花や、小千谷を彩る自然が作品に表現されています。それでいて、樋口さんの作品はどこか都会的な洗練も感じさせます。「着て美しくお洒落であること」を第一に、無駄を省いたシンプルな美しさが樋口さんの作品の魅力です。
 樋口隆司さんは季節に合わせて三種類の着物を制作されています。

小千谷縮 【着用時季:夏(六月〜九月)】
 麻で織られた夏の着物です。しなやかな風合いと肌触りのために、強い撚りをかけた麻糸を織り、湯の中で揉んで仕上げをします。「シボ」と呼ばれる凹凸のある生地が特徴です。汗をよく吸い、すぐ乾くので、ずっとサラサラした着心地。通気性がよく、風に当たると着物を空気が通り抜けていくような感覚があり、「風を纏う着物」ともいわれています。羽織ってみると、小千谷縮ってやっぱり軽い!
樋口さんの小千谷縮は色合いも爽やかで、暑い夏も涼やかに過ごせそうですね。
湯揉み絹縮【着用時季:夏単衣(五月〜十月)】
 小千谷縮の技法を絹に応用した絹織物です。「夏ひとえ」といい、五月から九月までの幅広い時期に着ることができます。襦袢や帯・小物のコーディネートによって季節に合わせた着こなしができる着物です。その名のとおり、湯の中で揉んで仕上げられた生地の風合いは柔らかで、羽衣のよう。それでいて紬らしいコシもあり、着ると滑らかで美しいシルエットに。適度に落ち感もあり、単羽織などにもおすすめです。
紬ちりめん【着用時季:袷・単衣(十月〜五月)】
 小千谷縮と並ぶ小千谷の代表的な織物・小千谷紬に、縮緬加工を加えた絹織物です。単や袷の着物としてお召しいただけます。落ち着きのある紬の風合いに、コシのある縮緬の風合いを加えた生地は着心地がとてもよく、ほとんどシワにもなりません。カジュアルな着物として普段着に、また無地感のものは少し改まった装いにも。
男性の着物にもおすすめです。

 二十七日から二十九日までの期間中は樋口隆司さんが弊店にお越しくださいます。
小千谷の美味しいお菓子もご用意しておりますので、一つひとつの作品をゆっくり、じっくり、ご覧ください。
ご来店を心よりお待ちいたしております。