日本書紀に「山高く谷幽し。翠き嶺万重れり」とあるように、信州松本は美しい山々に囲まれた自然あふれる地。日本の原風景が残る場所です。中でも三才山(みさやま)の麓は今も里山が残り、美しい田園が続きます。その昔は、このような里山の家々から機を織る音が聞こえてきたのでしょう。
紬は里山の自然と共にありました。糸を紡ぎ、その土地に自生する植物で染め、ゆったりと移り変わる季節の流れに合わせながら、焦らず急かさず、少しずつ織り上げていくものだったのです。そんな里山の紬織の流れを今に受け継ぐのが、横山俊一郎さんの【みさやま紬】です。
「みさやま紬の命は色です」と横山俊一郎さんがいうように、みさやま紬は草木染のみで染められています。その材料は山に自生する植物。胡桃、栗、桑、漆、梅、上溝桜・・・横山俊一郎さんは山に分け入り、染めに必要なだけの草木を採ります。山の草木は季節によって色を変えていきます。その年の気候によっても、色が変わります。今日という日が二度と来ないように、草木の色も一期一会。「草木染の色は人が作るのではない。山からありがたく頂く色なんです」とは横山さんの言葉。そこには自然に対する感謝の念が込められているように感じます。シンプルな縞と格子を基調としているのも、紬の風合いと草木染の色を素直に感じられるから。自然と対話しながら、自然の声を織り上げていく。そんなものづくりが、三才山の麓で続けられています。
どれほど近代化が進んでも、人と自然はどこかで繋がりを求めているのではないでしょうか。【みさやま紬】に触れると、心の中の「ふるさと」が呼び覚まされる思いがします。遠い記憶の彼方に残る景色や匂い。 日本の原風景がこの布の中に生きているのです。 |