初夏の陽気が清々しい今日この頃。ホトトギスの泣き声が聞こえ、紫陽花の花も色付き始めています。陽差しは日に日に強さを増し、本格的な夏が近いことを知らせています。
 強い陽光の中では鮮やかな色がひときわ映えます。南方の染物が色鮮やかなのは、燦燦と照る太陽の恵みの色かもしれません。沖縄の地で生まれた琉球紅型も、そのひとつでしょう。赤や黄、青の鮮やかな色が花開く琉球紅型は南国独特の魅力を放ち、今も多くのひとの心を魅了してやみません。
 沖縄から遠く離れた京都の染織家の中にも、琉球紅型に魅了された方がいます。京都・高尾に工房を構える「栗山工房」の創始者・栗山吉三郎です。琉球紅型の色模様の美しさに惹かれた栗山吉三郎は、そのデザイン性や色彩感を取り入れながら京の高度な染織技術で独自の紅型染を考案しました。それが「和染紅型」です。
 創業から六〇年余り経った今も、初代栗山吉三郎の思いを受け継ぎ、手仕事にこだわり続ける栗山工房。その技を拝見するため、京都高尾の工房を見学させていただきました。京都市内からバスに揺られること四〇分、のどかな田園風景が広がる場所に、栗山工房はあります。空も水も美しいこの場所で、色鮮やかな作品が染められているのです。
 工房を案内してくださったのは未来の三代目、西田裕子さん。二代目栗山吉三郎である大箭秀次さんのお嬢さんです。西田さんは幼少より音楽に親しみ、音楽大学に進学した経歴の持ち主。音楽の道に進むことも考えたそうですが、お父さんの生み出す美しい作品に魅了され、工房を継承することを決心されたそうです。
 多くの工程に分かれる和染紅型の技法。栗山工房では、ほとんどの工程を一貫して行っています。最初は図案、型紙作りから。柄のモチーフは花鳥風月や伝統的な文様の他、モダンなデザインも創作しています。型紙も一枚ずつ手で彫ります。時間をかけて彫りあげた型紙は貴重な財産。長く使うと破れることもありますが、補修をしながら大切に使い続けるそうです。
 和染紅型は糊で防染します。栗山工房で使う糊はもち米の糊。染め味が柔らかい仕上がりになるのです。型紙を使い、板場で糊を置くのですが、一度糊を置くだけでは十分ではありません。一度置いた糊の上にさらに糊を重ね、糊を盛り上げることで柄の切れ味を際立たせます。染料の滲みを防ぐ豆汁を塗り、布海苔を引いて乾燥させると、いよいよ彩色です。
 多彩な色彩が特徴の和染紅型。色は一色一色手で挿して染めます。色の重なりや交じり合いの美しさは手挿しならでは。柄の色を挿した後は、地色を染めます。全体をムラなく染めるため、丁寧さと共に手際の良さも求められます。同じ柄でも色を変えるだけで雰囲気が大きく変わり、夏物と秋冬物を同じ柄で配色を替えて染めることもできるのです。色止めのため高温高圧で蒸し、最後に水で余分な染料や糊を落として整理をすれば完成です。
 弊店と栗山工房との出会いは昨年の夏、素敵な日傘が目に留まったことがきっかけでした。洗練された爽やかな色彩に惹かれ、そして栗山工房に引き寄せられたのです。最初はインターネット上でのコンタクトでした。そこでご対応くださったのが西田裕子さんでした。工房のホームページも拝見し、老舗の工房でありながら、若い感性にあふれていることを感じました。そして、その印象は工房にお伺いしてさらに強くなりました。西田さんをはじめとした若い方々が熟練の職人と共に切磋琢磨しているのです。長い歴史の中で培われてきた伝統と若いエネルギーが一つになって、世代の垣根を越えてものづくりに挑む姿に、栗山工房の作品から感じる美しさの源泉を見た気がしました。
 この度の作品展では、着物、帯ともに袷から夏物まで、色彩豊かな作品を取り揃えました。和装、洋装ともに楽しめるバッグや日傘も、すべて一点一点手染めされた逸品揃いです。ぜひお手に取ってご覧ください。


カジュアルに楽しむ紅型名古屋帯。太鼓柄も前の柄もたっぷり染められているのがうれしい♪

大麻地 九寸夏帯
<彦根更紗>

大麻地 九寸夏帯
<グロリオサ>

縮緬地 九寸名古屋帯
<鎌倉松竹梅>

紬地 九寸名古屋帯
<一釜ぶどう唐草>

紬地 八寸名古屋帯
彩り豊かな紅型きものは袷・単向きから夏物まで種類も豊富に取り揃えました。

上布地 夏附下小紋
<茶屋辻松>

上布地 夏小紋
<流水に梅紅葉>

紬地 小紋着尺
<ナデシコ更紗>

紬地 小紋着尺
<竹の丸>

紬地 小紋着尺
<飛柄梅アヤメ>
和洋どちらにも合う紅型アイテム。バッグはA4も入る大きさ。日傘はUVカット効果あり。
<帯地バッグ>
<麻地日傘>