布に模様を描く技法の中で最も古くからあるものの一つに「絞り染め」があります。布を糸で括ったり、縫い絞めたり、板などで挟んだり、押し付けたり、圧力をかけて染料が浸み込むのを防ぎ、染めるところと染めないところを分けるのが絞り染めです。染の技法としてはシンプルなもので、世界中で古くから絞り染めが行われてきました。日本においても、六、七世紀ごろには絞り染めが行われていたといわれています。

鹿の子絞り、帽子絞りなど、技法によって携わる職人も違う
 そんな絞り染めは、近世日本、とりわけ京都において飛躍的な発展を遂げました。それが「京鹿の子絞り」です。京鹿の子絞りの発展によって、世界に類を見ない絞り染めの技術力と表現力が、ここ日本で培われてきました。
 日本における絞り染めの大きな発展の一つは、絞り染めの分業化、専門化による技術の拡大です。一人の人間にできることには限りがあります。京鹿の子絞りは、様々な工程、技法で分業化を進めることで、それぞれの分野のエキスパートを育てていきました。そのために絞り染めの技法は多種多様になり、高度化していったのです。京鹿の子絞りの美しさは、高度に進化した職人技の総合力なのです。
 二つ目の大きな発展は、絞り染めによってのみ生まれる生地の立体感に美を見出したことです。それまでの、ただ模様を染め分けるためだけだった絞り染めが、生地そのものに凹凸の変化をつけるという新しい表現力を得たのです。
 この度弊店で作品展を開催させていただく「京絞り寺田」の寺田豊さんは、京の絞り染めの伝統を受け継ぎつつ、未来志向のものづくりを続けておられる方です。寺田さんのものづくりの根源には「絞り染めの着物を『着るもの』としてもう一度見つめなおす」という思いがあります。過度な装飾よりも、美しく着こなせることが、着物としての本当の価値だという意思のもとに、着る楽しみ、纏う喜びを感じられるものづくりをつづけられているのです。
 一つ一つの作品に思いを込め、オリジナリティあるものづくりに取り組まれている寺田豊さんは、お客様のオーダーメイドも快くお受けくださいます。お召しになる方によって、お似合いになる色、模様は千差万別。この世に一つだけの着物や帯をお誂えさせていただきます。
 絞り染めは一点一点人の手で絞り、染めるもの。そして最後の染め上りは、人の手の及ばない自然の法則が支配しています。どれほど技術が進歩したとしても、全く同じ染めを再現することはできません。絞り染めは全ての作品が一期一会なのです。ぜひ、作品一つ一つに触れてみてください。その作品固有の、命の鼓動が聞こえてくるかもしれません。
 三月二十一日(土)・二十二日(日)の両日は寺田豊さんが弊店にお越しくださいます。寺田さんと楽しいお話を、また別誂えのご相談などぜひこの機会にお出会いください。ご来店を心よりお待ちいたしております。