帯の紫紘は西陣の中でも老舗の帯屋です。格調高い古典柄の袋帯を得意とし、弊店でも留袖や振袖に合わせる逸品帯として紫紘の帯を扱ってきました。そんな紫紘が近年取り組んでいるのがウィリアム・モリスのデザインをモチーフにした帯です。
 ウィリアム・モリスは一九世紀に活躍したイギリス人デザイナー。洗練されたデザインのインテリア製品や美しい書籍を発表し、「モダンデザインの父」とも呼ばれています。
 モリスが生きた時代は産業革命によって社会が大きく変化する只中にありました。生産の機械化、合理化によって商品が大量生産され、安価に物が手に入るようになった反面、手仕事の美しさや誇りは失われ、労働者はただ使役されるだけのものになりつつありました。 モリスはこうした状況を批判し、生活と芸術の統合を目指したのです。モリスが制作したのは、鑑賞するためだけの美術品ではありません。暮らしの中に必要とされるもの、壁紙やカーテンなど、人々の生活に寄り添うものに、モリスは新しいデザインを与えたのです。毎日の何気ない生活の中にこそ美がある。モリスは暮らしの中に芸術を取り入れることで「生きることの美しさ」を取り戻したかったのかもしれません。
 着物もまた、身に纏ったときに最も美しく輝くものです。着物を着ることが、日々に彩りを添え、心を豊かにしてくれます。それこそがモリスが目指した「生活と芸術の統合」といえるのではないでしょうか。モリスの思いと西陣の技が織り成す紫紘の帯。ぜひお手に取ってご覧ください。