昨年末、京都の帯メーカーである「紫紘」の工房を訪ねました。着物がお好きな方の中には「紫紘」の名をご存知の方も多いかと思います。創業者の山口伊太郎さんが生涯を掛けて制作した源氏物語絵巻の西陣織による復元作品は特に有名です。その伊太郎さんの精神を引き継ぎ、織物の極限ともいえる精緻で優美な帯づくりを現在も続けられている帯屋さんです。
 この度、紫紘さんとのご縁をいただいたのは、山口伊太郎さんのお孫さんにあたる野中淳史さんとの出会いでした。その昔は取引がありながら、永らくご縁が途切れていた弊店を、野中さんがご訪問くださったのです。伝統ある老舗帯メーカーである紫紘さんで若い方が先頭に立ってご活躍なさっている。そのことが嬉しく、今回の個展開催をお願いさせていただいたのです。
 京都西陣の工房を訪ねると、野中淳司さんと、お姉さんの彩加さんがお出迎えくださいました。若い女性の方も一緒になってがんばっておられることにも感銘を受けました。女性が身に着けるものだからこそ、これからの呉服の現場には女性の目線、女性の感性が必要なのです。
 三階建になっている工房は、一階が営業部、二階が図案室、三階が機場となっています。二階の図案室では新作帯の図案作成の現場を拝見させていただきました。紫紘さんは西陣の帯メーカーの中でもいち早くコンピュータを導入されています。この日見学させていただいた時は、画面上の模様を帯の組織として微調整されているところでした。
 三階の機場では木製の機が並んでおり、一番奥の機で帯を織っているところを拝見させていただきました。2700本から3600本にもなる細い経糸、3センチの幅を90から100等分した極細の箔、それを一段一段手仕事で織っていく職人技。紫紘さんの帯の特徴はきめ細かい生地の風合いと精緻な模様、美しい箔、そして身体にぴったりと添う締め味の良さですが、その特徴は一つ一つの作業を実に丁寧に仕上げていくからこそ生まれるものなのだと感じました。
 最後に一階で帯の数々を拝見させていただきました。伝統に根ざしながら常に革新を怠らない紫紘さんの帯は実に多彩です。日本古来より伝わる文様による超一級のフォーマル帯から、近年はイギリスで活躍したデザイナー、ウィリアム・モリスから着想を得たモダンな帯なども制作されています。また中には野中彩加さんの描かれた風景画から制作した帯もあり、固定観念に捉われない自由なものづくりに取り組まれている姿勢を感じました。きっと、野中さんの中には、創業者・山口伊太郎さんの理念が受け継がれ、生き続けているのでしょう。是非、皆様にも一つ一つ生き生きとした魅力に溢れる帯を、お手にとってご覧いただきたいと思います。

■ 美しい箔使いの袋帯 ■
■ ウィリアム・モリスから着想を得たモダンな柄 ■
■ 少し軽やかな京袋帯 ■
■ 彩加さんの原画による爽やかな風景の帯 ■