「神戸縄文土器クラブ」の松本登さんの本業は、「三宮センタープラザ」地下 にある「ジャックダニエル」というハンバーグ屋さんです。 「ジャックダニエル」は、ハンバーグの美味しいお店として有名で、松本登さんが若かりし頃、アメリカで修行された本場仕込なのです。「ジャックダニエル」はまさに開拓者時代のアメリカの雰囲気に溢れたお店で、天井から吊り下げられた照明器具は幌馬車の木の車輪ですし、バッファローの巨大な角が店の入り口と中に掛けられていて、壁のディスプレーにはいつもカントリーミュージックの歌番組が映し出されています。
 私が松本登さんその人にとても惹かれたのは、松本登さんのご趣味が、なんと、縄文土器を復元製作することだからです。人と業は、勿論、本業でこそ問われるものですが、私は、かねがね、趣味にこそ表れる、と考えています。本業は、大袈裟ではなく、その人の生死に係わる、まさに、死活問題ですから、普通、誰でも、本業は疎かにしない、出来ません。趣味は、本来なら、どうでもよい、生き死にに関係しない。やっても、やらなくても、どっちでもいい趣味を、しかし、真剣に、真面目に、一生懸命やるのは、なぜか。そのことののなかにこそ、その人の、人と業が表れると思うのです。
 友人から「ジャックダニエル」について、「ハンバーグ作りを、本場アメリカで修行された、とても美味しいお店です」と聞かされて、是非、食べに行きたい、と思いましたが、オーナーの松本登さんが、縄文土器を復元製作されていると聞いて、その趣味は、ただ事ではない、松本登さんご自身も、ただ者ではない、と確信しました。だって、一体全体、この世の中で、縄文土器を復元製作しようなどと考える方がおられると思いますか。ハンバーグを作るために、肉をこねるのは当たり前、しかし、その同じ人が、縄文土器を作るために土をこねるなんて、一体全体、考えられますか。
 ハンバーグと縄文土器、一見、何の脈絡も無い話が、しかし、次第に、私の中で辻褄が合ってきたのです。肉を「こねる」ハンバーグと、土を「こねる」縄文土器と、「こねる」が共通項だ、などという、駄洒落まがいのオチでは、毛頭、ありません。ハンバーグも、縄文土器も、狩猟民族の文化だと気が付いたのです。
 弥生時代、日本に、水稲耕作がもたらされました。以来、今日に到るまで、とりわけ、明治時代以前の日本は、定住型農耕社会でした。その社会理念は、農業を基本とする農本主義でした。農業、とりわけ、水稲耕作が、日本社会の基礎構造をなしていたのです。江戸時代、「国力」、すなわち、国民総生産高が、「石高」、すなわち、米の生産高で表されたことは象徴的です。
 しかし、縄文時代は、狩猟採集社会でした。縄文時代の日本が、狩猟採集社会であったことは、それ以降の日本社会の在り方と、根本的に異なった様相を示していました。弥生時代以降、絶えてなかった狩猟採集社会の存在形態、その社会形態に自ずから形成される縄文時代人の意識形態は、縄文土器に顕著に表れています。弥生土器の優美繊細の意匠、文様と比較しても、縄文土器の豪快奔放さは際立っています。
 モノを創るとは、いつ、いかなる時代にあっても、自己表現です。自己の感情、欲望、希求、の表現です。であるなら、縄文土器と弥生土器との顕著な隔絶は、縄文人と弥生人の感情、欲望、希求、の差異に他なりません。現在の歴史学では、縄文人と弥生人との人種的相違は無い、というのが定説のようですが、かつては、別の人種であったという説があったほど、縄文人と弥生人との間には顕著な隔絶があります。
 縄文人と弥生人との相違は、まさに、狩猟採集民族と定住型農耕民族の差異に他なりません。弥生時代以降、定住型農耕社会として定着した日本社会で、縄文時代は、極めて特異な社会を形成しました。縄文土器は、弥生時代以降、絶えて無くなった、狩猟採集社会の意識形態を色濃く反映しているのです。
 「ジャックダニエル」の松本登さんは、ハンバーグ作りを学ぶために、本場アメリカにいらっしゃいました。カウボーイの国、フロンティアスピリットの国、アメリカに武者修行に行かれたのです。まさに、狩猟文化を学ぶために。そういう意味で、松本登さんは狩猟民族の末裔なのです。だから、縄文土器に、深く深く、魅入られた。その豪快奔放さに。
 是非、「ジャックダニエル」のハンバーグを食したい、松本登さんにお会いしたい、と過日、お店にお伺いしました。そして、「丸太や」で、松本登さんの復元縄文土器展を開催していただけないかお願いしました。来る、9月28日(金)、29日(土)、30日(日)、「丸太や」2階、「ギャラリー響」で、復元縄文土器展を開催いたします。私の中で、狩猟採集文化のパワーを頂きたいと期待しているのです。