「毎年よ、彼岸の入りに寒いのは」とは正岡子規の母の言葉だそうですが、今年も
寒い寒いと思っていたら、いつの間にか外はすっかり春の陽気です。少しずつ、でも確実
に季節は移り行き、暖かな日差しに装いも軽やかになっていきます。桜が散れば、夏
の足音も少しずつ近付くのが聴こえるはず。
近年、五月ごろには袷を着るのが辛くなるほど暑い日が多くなりました。残暑も
いつまでも長引いているようです。お洒落として楽しみたい着物でも、暑さを我慢し
てまで着るとなると気持ちも重くなってしまいます。暑いときには涼しい装いで過ご
すのが本来自然なこと。そういうわけで、弊店は単衣の着物をお薦めしています。
従来六月ごろと九月ごろの約二ヶ月間しか着られないと思われていたふしのある単
衣ですが、近年は五月の初旬から、十月ごろまで気候に合わせて単衣を着ても良い
ことにしましょうという流れになっているそうです。とにかく、着物がお洒落の一つと
して楽しむものなら、自分の感覚に率直に装いのかたちも選んでよいのではないでし
ょうか。
爽やかな単衣を着て足取りも軽く街を歩けば、夏の匂い、秋の気配、風の声、遠
くの雲、花が咲き、そして散り、草木の色も移り行き、そう、ひとは季節とともに
生きているんだ。
皆様も是非単衣の着物に袖を通して、この街を包んで流れてゆく季節を感じて、楽しんでいただければと思います。 |