昨年、弊店に若い染織家の方々がお越しくださり、ご縁を繋がせていただきました。色々とお話を聞かせていただき、またその作品を拝見させていただいて、呉服のものづくりの現場は未来の希望に溢れていると、そんな風に勇気をもらいました。その内のお一方がこの度個展を開催させていただく「辻が花工房 絵絞庵」の福村 健さんでした。 「辻が花工房 絵絞庵」の工房は京都の北、比叡山の山並みを望み、自然と澄んだ空気に包まれた場所にあります。工房の傍の側溝には、とても澄んだ奇麗な水が流れているのが、まず、印象的でした。その工房で、福村 健さんは、お父様の福村廣利さんのお二人で、下絵から染め上がりまで一貫して制作されています。 福村さん父子が制作されているのは「辻が花染め」と呼ばれる着物や帯です。「辻が花」は桃山時代から江戸時代初期にかけて日本の衣服を彩った技法の一つで、絞り染めを主体に、描き絵、箔、刺繍などを施しています。江戸時代に友禅染の技法が生まれ、着物の中心を譲りましたが、今直美しい輝きを放っています。 日本の着物が現在のかたちに近い小袖が主流になってから、白生地を染めて柄を描く技術がどんどん発展していきました。そのとき、日本人は一枚の着物をまるで絵画のように見立て、美しい風景を、四季の移ろいを、可憐な花々を、身近な生き物たちを、着物に描こうとしてきました。そして、生地を圧迫して染料の進入を防ぎ、染め分ける「絞り染め」の技法を用いて絵画的な表現を極めていったのが「辻が花」でした。 福村さんの作品も「絵絞庵」という工房名の通り、着物や帯に絞り染を主体とした絵模様が広がっています。全体を流れるような大きな構図から、花びら一枚にいたる細部まで、様々な絞り染の技法を駆使し、描いていきます。絞り染の輪郭は色彩を柔らかく包んで、そこに描かれる景色は淡く光るような印象です。 なぜこの技法が「辻が花」と呼ばれたのか、その由来は諸説あるそうですが定かではありません。しかし、僕は福村さんの作品を見て、これらが「辻が花」と呼ばれるのが、なんともしっくりとくるのです。やさしく、清く、あたたかく、それは想い出の中の風景のように、どこかで見たように懐かしく、淡い憧れを思い出させる・・・ありふれた風景の中に咲いていた花の美しさに気付くときのように、さわやかな印象が心に残る・・・日本の文化はどんなに豪華絢爛で技術の粋を尽くしたものでも、身近な美しさを描き続けてきました。一時「幻の辻が花」と言われた辻が花ですが、福村さんの生み出すものは幻ではありません。辻に咲く花のように、私たちの人生に寄り添うあらゆるものの美しさなのです。 会期中の土日(二十一日、二十二日、二十八日、二十九日)は、福村さん父子のどちらかが、会場にお越しくださって、いろいろと、お話をお聞かせくださいます。 是非、この機会に、奈良時代から延々と続いてきた、伝統的な技の一端をご覧ください。 ご来場をこころよりお待ちいたしております。 寒さ厳しき折、ご自愛ください。 三木 弦 |
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